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触れる体温-6

「さわ、って――触れて、ください」  どれだけ彼が自分を冷たく扱おうと、ただただエルキュールが愛しい。  それは少女の頃に抱いていた憧憬とはまたなにか違う、身を焦がしそうなほど激烈な感情だった。それをどう表していいか分からず、体の中から焼き焦がされてしまいそうな――。  そして、今までにない感情の奔流に耐えきれず、イリスはふっとエルキュールから顔を背けた。こんなに浅ましい姿の自分を、彼に見られるのは耐えられない。 「……やっぱり、忘れてください」 「なにを今更」  すすり泣くような声で呟いたイリスに、エルキュールはそう言って柔らかく笑った。  彼のこんな表情を見たのは、もう何年ぶりだろうか。  羞恥とともに、イリスの胸の中をどうしようもない懐かしさがこみあげてくる。 「今、君の声で聞いた。忘れるものか……触れてほしいんだろう」  これ以上ないほどに優しく囁いたエルキュールは、その長い指をイリスの下肢に伸ばした。柔毛に秘された彼女の中心を、指先で丁寧に広げてやる。 「ぁっ……!」  潤み、蕩けたその場所を解きほぐすように、長い指先が蜜口をなぞる。  されていることは、イリスが以前エングランツ公爵邸を尋ねた時と同じだ。だが、あの時よりも触れ方はずっと優しくて、気遣いすら感じられる。 「ふ、ぁ――ァっ」 「痛いか?」  くち、と水っぽい音が、部屋の中に響く。  痛くはない。他人の指を体の中に招き入れるという、異物感は確かにあったが、それでも彼の触れ方が上手なのか――或いは、それを受け入れるようにイリスの体が変容したのか、痛みはほとんどなかった。 「いたく、ない……です」 「そうか」  呼吸を乱しながらようやっと答えたイリスを慈しむように、エルキュールはもう片方の手でそっと頬を撫でてくれた。  その間にも入り口をなぞっていた指先がゆっくりと蜜路を進む。  感触を確かめるように隘路を進み、柔らかい内襞を丹念に撫でていくと、ある一点でイリスの体がぶるりと震えた。 「やっ……! そ、こ――」 「ここが悦いか?」 「あ、はっ――ン、っ」  ビクッとイリスの腰が揺れたのを、エルキュールは見逃さない。先ほどよりも少しだけ強い力でそこを刺激すると、イリスは髪を振り乱していやいやと首を振った。 「だ、めっ……エルク――そこ、やぁっ」 「――どうして?」  そんなことを聞くエルキュールは、意地悪だ。  弱い場所を触れられる度に、イリスの唇からはあえかな声が漏れた。小鳥が囀るようなそれを聞きながら、エルキュールは薄い笑みすら浮かべてもう一度イリスに問いかける。 「どうして、触れてはいけないんだ?」 「へ、んに……そこ、触られたら……ッ」  意識の縁が曖昧になって、自分でもなにを口走っているのか分からなくなってしまう。  最奥から溢れ出す蜜を掻き回すように指を折り曲げたエルキュールが、駄目押しにまたその場所を掻いた。 「あ、ッ……は、ぅ――やぁっ、そ、こ……!」  イリスは力の入らない手でエルキュールの腕を掴んだが、それも軽くいなされるだけだ。  背筋をゾクゾクと駆け上がってくる愉悦に、イリスは大きな目から涙をこぼした。 「も……そこ、やぁっ……!」  断続的に与えられる刺激は、その奥にある扉を開くには少し弱い。だが、それを知らぬイリスからしてみれば、これ以上弱点を執拗に責められるのは理性の限界でもあった。 「だが、慣らさねば辛いのは君の方だ。これ以上事を進めれば君の体に負担がかかるだろうし、なにより――君が痛がったり、苦しんだりするのは俺も見たくはない」 「く、苦しいのですか……?」  今もって、エルキュールの指を受け入れるのは容易なことではない。それよりもなお苦しいことが、愛しい人とのこの行為にあるのだろうか――。  その恐ろしさに少しだけ冷静になったイリスが不安げな表情でエルキュールを見上げる。彼は、自分は男だからと前置きした上で、優しく彼女の髪を撫でた。 「女性は、初めては辛いことがあると聞く」 「男性は、辛くはないのですか」 「……どうだろうな。少なくとも、君が痛がったり苦しんだりすれば、俺も心地よくはない」  だから、とエルキュールは埋めた指先を少し奥に進めた。狭い膣内が、きゅうとそれを締めつける。 「んっ……も――大丈夫、です」 「……本当か?」  本音を言えば、未知の体験というのは恐ろしい。イリスもおぼろげな知識でしか知らないこの行為が、恐ろしくてたまらない。  だけどそれ以上に、彼を愛しいと思った。  再会してから、ずっと心の奥底にしまいこんでいた彼への想いが、その指先で紐解かれていく。自分に優しく、どこかおそるおそる触れる彼を受け入れたい――イリスは唇を引き結ぶと、一度大きく息を吸い込んだ。 「だ、大丈夫……です。エルキュール様だから、平気」  おずおずと頷いたイリスに、エルキュールは痛ましげに目を細めた。そんな彼の姿を見ていたくなくて、そっとその名前を呼ぶ。 「……エルキュール様?」 「俺、は――」  なにか言いたげに開かれた唇は、結局言葉を発することはなかった。代わりにそっとイリスの足を持ち上げたエルキュールは、低く押さえつけたような声で呟いた。 「今更、後悔は――」 「あ、ありません! ……私、あなたの妻ですもの」  後悔などはあるはずもない。イリスはずっと彼が好きだった。許嫁であったことだけではなく、彼の優しさや聡明さにずっと惹かれていたのだ。ようやく家族になることができた彼に対して、後悔などするはずがない。
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