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触れる体温-5

「ん、やぁっ……!」  これまで生きてきた中で、こんな感覚はまるで覚えがない。  声を抑えようとしても、薄い彼の手のひらがそれを阻んだ。両手を頭上でまとめられて、イリスは抵抗もできないままエルキュールに裸体を晒すことになる。 「白い――柔らかい、肌だ」  暗い室内で、エルキュールの瞳は美しい宝石のようだった。日光の下では知的なビリジアンに見えるその瞳は、月の光の下で鮮やかにきらめいている。  うっすらと開いたイリスの唇にくちづけながら、彼は柔らかなその胸を手のひらに収めた。 「ぅ、ん――ふぁ、ぁ……ッ」  鼻から抜けるような、甘い声。まるで自分のものではないような声に、イリスは困惑した。彼によって、自分を守っていたなにかがゆっくりと解かれていくのだ。 「やっ……あ、ぁっ」  ちゅ、と音を立てて唇を吸われるのと同時に、少しかさついた彼の指先がふっくらとした乳房を揉む。白い柔肉は五指によって形を変え、やわやわと揉まれるだけでくすぐったいような刺激をイリスにもたらした。 「まるで、悲鳴だな」  ふと、エルキュールが胸を弄う手を止めた。  体を起こした彼は、そっとイリスの頬に触れてはややもの悲しげな表情で目を伏せる。 「……恐ろしいか」  なにが、とは彼は言わなかった。あるいは彼自身のことを指したのかもしれないが、イリスはぐっと唇を引き結ぶと、首を横に振った。 「少しだけ、驚いてしまうかもしれません……でも、怖くは、ないです」  その声はみっともなく震えていて、自分でも精一杯の虚勢だということがわかるほどだ。  実際、彼にもたらされる未知の刺激は、イリスにとって恐怖を覚えてることもある。だが、そのすべてが彼から与えられていると思えば――それは、幸福ですらあった。 「わ、私があんまりにもみっともないようなら、言ってください。その……あんまり、自分がよくわからなくなってしまうので」  顔を真っ赤にさせてそう呟くイリスに、エルキュールは驚いたように目を見開いて、そしてふっとその表情を緩めた。 「なるほど。君をそうやって、『よくわからない』状態にさせることができるのが俺だというのは、光栄だ」  そう言うと、彼はぐっと身をかがめた。震えるイリスの唇に一度だけキスをすると、赤い舌はそっと、色づいた彼女の乳房をなぞる。 「ひっ……ぅ、ん」  生温かい体温と、ざらついた舌の感触がイリスを乱す。  暗がりで今エルキュールがどんな顔をしているのかがわからない。慈しむように丘陵の線をなぞる彼は、笑っているのか怒っているのか――イリスはそれが、途方もなく不安だった。 「ァッ――ぅ、う……エル、キュール、様」  おずおずと胸の辺りに手を置くと、やや硬い彼の髪に触れた。どうしたのかと顔を上げたエルキュールに、恥を忍んでお願いをしてみる。 「どうした、イリス」 「お、お顔が……よく見えなくて」  彼に見つめられていると、安心する。体の内側が温かくなって、緊張が和らぐような気がする。  顔がみるみるうちに熱くなっていくのを感じながら、イリスはそうエルキュールに告げた。普段こうして彼と会話を交わすことがなかったものだから、今更ながらに気恥ずかしさがむくむくと膨らんでくる。 「やっ……やっぱり今の、な――ひゃうっ!?」  聞かなかったことにしてほしい、と両手で顔を覆ったイリスの耳に、突然バサリと衣服が揺れる音が飛び込んできた。何事かと思って指の隙間からエルキュールの様子をうかがうと、彼の上半身が月明かりに照らされていた。  よく見れば、普段隙なく着込まれていた彼の着衣はあっさりと床に投げ捨てられている。 「顔が見たい、か。いいだろう」  寛大な王のように頷いたエルキュールは、そのままイリスと胸をくっつけるようにして体を密着させてきた。彼女の豊満な胸が、やや汗ばんだエルキュールの胸板に押しつけられて形を変える。 「あ……はっ……!」  とく……と、体温とともに彼の鼓動までが体に響く。  力強く脈打つ心臓と、体温の高い彼の肌に触れているだけで、イリスはその場所から溶けてしまいそうだった。  小さくかぶりを振ったイリスはエルキュールの腕から逃れようとしたが、力強い彼の腕は彼女の抵抗をまるで受け付けない。それどころか、うっすらと微笑んだエルキュールはイリスの顎をとり、顔を背けられないように場所を固定してしまう。 「拒まないんだろう? 俺を」  ほんの少しだけ、彼との間にできた距離。まるで心の距離そのもののような空白を吐息で埋めるように、エルキュールはイリスの名前を呼んだ。 「ならば、受け入れてくれ。――イリス」 「んんっ……!」  噛みつくようなくちづけに、イリスはくぐもった声をあげた。  エルキュールの大きな手のひらが、たわわな彼女の乳房を、まるで持ち上げるように揉んだ。深いキスで呼吸すらも支配されているのに、そんなことをされては本当におかしくなってしまう――。 「んぁ、ふっ……ん、っ」  角度を変えて何度も咥内を蹂躙されると、次第に視界がぼうっとぼやけてくる。  体の中にうまく酸素を取り入れることができないまま、次第にイリスは不思議な浮遊感すら感じるようになっていた。  触れられれば熱い。それなのにエルキュールによってもたらされる感覚は、やはり不快なものではなかった。  慈しむような愛撫に胸の奥がぐっと苦しくなる。けれど、もっと触れてほしい、もっと激しくしてほしいという思いが、泉のように湧き出てきて止められないのだ。 「はっ……――あ、エルク……」  彼を愛称で呼ぶことなど、今までほとんどなかった。  まだエルキュールもイリスも子供だった頃は、兄のような彼をそう呼ぶことも多かったように思う。だが、彼が公爵家を継いでからはそれもなくなった。 (でも、今くらいなら……)  今だけであるのなら、彼もそれを咎めないだろう。  イリスは涙のにじむ目をゆっくりと開けて、気怠い右腕を持ち上げた。 「どうした、イリス。……どこか痛むか」  ゆるりと持ち上げられた手をそっと取って、エルキュールはしっとりとした声でそう尋ねてきた。靄がかかったような、妙な浮遊感に浮かされたまま、イリスは首を横に振る。 「ぁ、の……」  声は不格好に掠れている。彼の手で、唇で高められた体は、とっくに限界だった。
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