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また会ったね

合唱が終わり休憩に入ると、私はお母さんにまたトイレに行ってくると言って席を立った。 『Mandarin orange』は、とても素晴らしい演奏だった。 何よりも拓未くんのピアノ伴奏のかっこよさには、思わず席を立ちそうになったほどで。 姉が選抜メンバーに選ばれたことを自慢する気持ちがよくわかった。 私もいつか拓未くんみたいに、この舞台で『Mandarin orange』を弾いてみたい。 胸がドキドキして、興奮が収まらない。 この気持ちを伝えたくて、ホールの内外をうろちょろしてみたけれど、拓未くんの姿はない。 雪がちらちらと舞っているせいか、ホール外に人気はない。 休憩時間終了のブザーがしたけれど、諦めきれない私はホールから離れ校舎へと入ってみることにする。 もしかしたら、拓未くんがいるんじゃないかと思って。 校舎は去年と同じでひっそりと静まり返っている。 「いるはずないよね……」 呟きながら、私は教室の並ぶ廊下を歩いた。 「……ねえ、君もしかして」 後ろから声がした。振り向かなくても声で分かる。 「拓未くん! 探していたの」 振り向けばと真後ろに拓未くんがいて、私は思わず飛びついた。 「『Mandarin orange』すごくかっこよかった! 私もこの学園に入って、絶対拓未くんみたいに伴奏したい。本当に、本当にかっこよかったの」 驚いて拓未くんがのぞけったのがわかったけれど、興奮状態の私は早口に捲し立てる。 「……ありがとう。聴いていてくれたんだ」 離れると、拓未くんは綺麗な満面の笑みを私に向けてくれた。 「うん、ずっと聴いていたよ」 「嬉しいな、すごく嬉しい」 拓未くんの目がじわりと滲む。 「ごめん……辛かったのが君のひと言で報われた気がして」 頬に伝わる涙も美しいと思った。綺麗に泣く拓未くんは、本当に天使みたいで。 「僕さ、将来音楽の先生になりたいんだ。それで母校に戻って合唱祭の指揮をしたい。だから君が伴奏者になったら、いつか共演できるかもね」 「私勉強苦手だけど、受験してこの学園に入りたいな。お母さんは音楽高校に行けっていうんだけど」 「音高にってことは、君ピアノ上手いんだ」 「うん、ピアノだけは自信があるの。でも拓未くんには、まだ勝てそうにないけど……」 「まだ時間はたっぷりあるよ。名前はなんていうの?」 「一ノ瀬椿、覚えていてね。いつか一緒に演奏するから」 拓未くんは「待ってるよ」と言って、私の頭を撫でてくれた。
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