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意地悪な先生

「先生、やめて」 首筋に意識が集中して、指が止まりそうになってしまう。 「ここはもっと豊かに弾かないと」 堪えようとすればするほど、艶めいた声が漏れてしまう。 でも、真後ろに立つ先生は冷静な声で指導を続ける。 先生の冷たく長い指は、シルクでも撫でるように私の肌の上を滑る。 どうしてこんなことになったんだっけ。 くすぐったさと感じたことのない感覚で、頭の中がおかしくなりそうだ。 指がもつれ音が飛ぶのを、先生は喜んでいるみたいに思える。 「もう諦めて、弾くのをやめたらどうかな」 先生がくすりと笑うと、耳に息がかかってゾクゾクっと身体が震えた。 「いや……です」 「一ノ瀬って強情だね」 呆れたように言い、先生は弄んでいた私の首元から手を離した。 ほっとしたのも束の間、ビクンと私の身体が跳ねる。 先生が息をふっと耳の中に吹きかけたからだ。 「初々しい反応を見せてくれて嬉しいけれど、僕としてはさっさと諦めてくれるほうが嬉しいんだけどね。どう一ノ瀬。考え直す気になった?」 私は必死に指を動かしながら、ぶんぶんと頭を振る。 「仕方ないな……」 先生はため息をつくと、私の髪に手を入れ後頭部を支え、顔を寄せた。 また耳に息がかかると思って身構えた瞬間、温かくてぬるりとした感覚に肌が粟立つ。 「やだ……先生」 先生の唇が私の耳たぶを包む。 ゾクゾクと腰から背筋にかけて、電気が走ったみたいになる。 「音外しすぎ。やめて欲しいなら指を止めるだけだよ。簡単なことだと思うけどね」 耳元でささやいた先生の声が、私の動揺を誘う。 またミスタッチした。 必死に冷静さを取り戻そうとする私を、嘲笑うみたいに先生は私の耳たぶを甘噛みする。 ぴちゃりという水音に、身体がピクンと反応してしまう。 もうダメ、もう無理。 耳の形をなぞって舌を這わせていく先生に、私は指の指は止まる。 「もうやめたいなんて言わない、だから……許して先生」 鍵盤の上に崩れるようにがくんと力が抜けて、不協和音が響いた。 「一ノ瀬の負け。真面目にレッスンを受けること」 涼しい顔で言うと、先生は何ごともなかったかのようにすっと私から離れた。
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