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chapter2 + 27 +

   * * *       「誰の差し金だと思いますかぁ?」  理事長室を辞した直後、加藤木が小声で陸奥に問えば、陸奥はつまらなそうに応える。 「知るか」 「茜里総合病院って医療法人廻庭(かいば)会のグループ傘下ですよねぇ。桜庭財閥から借金して病院建てて大儲けした」 「……また桜庭財閥か」 「いえ。財閥は既に病院事業から手を引いていますよ。ただ、彼女の身柄をそちらに移したい何者かが接触を図ったのでしょう。白井理事長も亜桜小手毬が自傷行為をしたのを知って、転院の件を打診したみたいですから」 「ならばなぜ俺と加藤木が派遣される?」 「彼女の精神状態を悪化させないためでしょうねぇ。茜里第二って、第一の外科内科病院と違って精神科一色の特殊病院ですから。いきなり見ず知らずの場所に放り込まれた彼女を驚かせないためにも陸奥先生とわたしが必要だと先方が要請したのでしょう……たぶん」 「ふん」  加藤木の話に耳を傾けつつ、陸奥は小手毬の病室へ歩みを進めていく。 「あと――敵は諸見里自由と亜桜小手毬を引き離したいんだと思いますよぉ」 「は?」  自由と小手毬を引き離す、と口にした加藤木の表情は硬い。  それよりも彼女はいま、さりげなく“敵”と言わなかったか? 「加藤木、お前……」  けれども陸奥が声をかけるよりも先に、加藤木は小手毬の部屋の扉を勢いよく開いていた。  病室で待機していた看護師の楢篠がぎょっとした表情で加藤木と陸奥を見つめている。  小手毬はすぅすぅと気持ちよさそうに眠っている。     「加藤木先生? え?」 「楢篠。すまないが車椅子の確認を頼む」 「――はっ!」  何事かと慌てふためく楢篠に命令した陸奥は、病室内の数少ない荷物を集め、眠りつづける小手毬の傍へ置く。  着替えが入った鞄、棚の上に置きっぱなしの文庫本にのど飴、枕元に置かれている優璃が作ってくれたドライフラワーのポプリ……  バタバタ動き回っていたからか、気づけば小手毬がとろんとした瞳を開いて陸奥と加藤木を見上げていた。 「ミチノク? カトーギ? 何してんの?」  夢うつつの表情の小手毬に、加藤木があらお目覚めねとふわふわの髪をそっと撫でる。小手毬もまんざらではない様子で加藤木のポニーテールに手を伸ばし、きゅっと握りしめながら甘く囁く。   「ごめんねカトーギ、リハビリお休みして」 「いいのよ~。思っていたより元気そうでよかったわ」  ふたりの親し気な雰囲気に陸奥の表情が険しくなる。  同性同士で戯れているだけだと理解しているものの、自由以外にも馴れ馴れしく小手毬に触れる人間がいたとは……  嫉妬にも似た感情を持て余している陸奥を前に、加藤木がクスクス笑う。   「陸奥先生でもそんな顔するのね」 「何がだ」 「自覚してない分たちが悪いわよぉ。それより患者さんに事情を説明してあげたら?」 「え?」  小手毬が陸奥の方へ顔を向ける。  黒真珠のような潤んだ瞳が陸奥の榛色の瞳とぶつかる。  小手毬の視線を捕らえた陸奥は動揺を抑えながら、しずかに告げる。 「転院だ」
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