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chapter2 + 25 +

「あら、赤根センセ。珍しいですね~、こんなところまで」  けれど加藤木は気づいていた。  そしてあえて楢篠天のことを赤根、と口にする。   「――どこまで知っている?」  凛とした佇まいの美人医師は単刀直入に問いかける。  加藤木はへらへらした笑みを浮かべながら、媚びるように言葉を紡ぐ。   「えぇ~。貴女に告げたところでメリットがないですよぉ」 「何を望んでる」 「話が早くて助かるわぁ」  ばさりと言い捨てる天に、加藤木がにやりと笑う。     「諸見里自由の母親について。かつて家庭教師をされていた赤根センセならご存じですよね?」 「それを知ってどうする?」 「そうですねぇ、貴女の復讐を手助けしてあげてもいいですよ?」  復讐、と口にする加藤木を見て、天はきゃははとふだんとは似ても似つかない甲高い声をあげる。  その場違いな声を耳底に落としながら、加藤木は告げる。     「……赤根家と訣別したのは事実みたいですねぇ」 「そんなのとっくよ。こそこそ何を嗅ぎまわっているのかと思えば、今更コデマリの身辺調査?」 「みたいなものですね。蘭子が眉唾物よと口にしてましたよ。あんなのが“諸神(もろがみ)”の“女神”が産み落とした“器”だなんて、って」 「――ときどき貴女の情報収集能力が恐ろしくなるわ」 「それは光栄です」 「ほめてないぞ」 「前世は密偵(スパイ)でもしてたんじゃないかと自分でも思うのです。医師探偵加藤木羚子ってかっこよくないですかぁ?」 「……前言撤回。陸奥先生と同期の人間ってどいつもこいつも癖がありすぎ」 「光栄です」 「だからほめてないって」  呆れる天を前に加藤木はにこにこしている。  彼女がどういう立場の人間か理解できない天は、怪訝そうに彼女を見据える。  視線を交錯させながら、加藤木は天の前で表情を改める。   「……それじゃあ、楢篠先生は、誰の味方なんですか」 「誰の味方でもないわ」  もう赤根の家とも断絶したし、桜庭財閥や亜桜家のごたごたにつきあう筋合いもない。  けれど赤根天という人間だった頃、彼女は過ちを犯している。自由と小手毬の仲に亀裂を入れるという過ちを。  だからいまは、贖罪の意味も込めて、見守る立場を貫こうとしているのだ。  加藤木からすればそれ自体が復讐なのかもしれないが。     「そうですかー。わたしは亜桜小手毬が救われればそれでいいです」 「とんだ偽善者ね」 「貴女こそ~」  腹黒い微笑を浮かべてふたりは互いの持ち場へ戻っていく。  今度こそリハビリ室は、静かになった。
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