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chapter2 + 13 +

「はあ」  一介の医師は通常、治療費の支払いについては事務方に任せっきりで、そのお金がどこから出されたかなど気にも留めない。  だが、加藤木は事務方の人間とも懇意にしているようで、その手の話もちゃっかり耳に入れているそうだ。守秘義務上アウトだろ、と突っ込みを入れたいところだが、本人は「たまたま聞こえちゃっただけです~」とケロリとしている。 「陸奥先生こそおかしいと思わなかったんですか? 最先端の脳外科手術に二年にわたる長期入院、後遺症治療とリハビリ……莫大な医療費がかかっているのに助成制度を使うでもなくポンとお金を支払う患者さんですよ? 裏にすごい人物が関わっていることくらい理解できません?」 「……だが、医療保険や交通事故の賠償金などで支払ったんだろ?」  事故の責任を感じた優璃が結婚資金を崩して賠償したという話を出せば、加藤木はふん、とつまらなそうに鼻を鳴らす。 「そんなの微々たるものですよー。病院の個室料金やオプションも含めたらもっとかかります」  ……ったくこれだから金持ちのボンボンは、と毒づく加藤木を前に、陸奥は目を瞬かせる。  確かに陸奥は両親ともに医者で、苦労することなく医学部に入り医師になったが、加藤木は県立高校から一浪して私立の医大に入り、ようやく医師になったものの今も奨学金の返済があるとしょっちゅう愚痴を零している。 「そうだな――ご令嬢、なのか」 「ようやく気づいたんですか……庶民の感覚だと『相当な』ご令嬢だと思うんですけど」   そう考えると、亜桜小手毬自身、私立の女子校に通うお嬢様だ。傍系とはいえ諸見里家と家族同士で懇意にしているのだから、家柄も生半可なものではないはずだ。  昏睡状態になった彼女の脳死判定を受けるか両親に訊ねた際、「お金ならいくらでも払うから、治療に専念してくれ」と早咲に懇願していた話も真実なのだろう。  それだけ、彼らは彼女を生かそうとしていたのだ。  そして彼女は意識を取り戻した。記憶や知能に後遺症はあれど、リハビリを行うことで日常生活を送れるレベルまでには回復している。  ――が、ここにきて「これ以上支払う金がない」とはどういうことだ? 「まさか……桜庭家が……?」 「そのまさかですよ」  加藤木は陸奥の耳元でそっと呟く。 「彼女……亜桜小手毬は、桜庭雪之丞の隠し子なんです」
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