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第16話

「……僕は、どんなドレスを何枚注文したのかとか、真珠子(しずこ)を東京見物でどこに連れて行ったのか、とかそういったことを訊いたんだけどね……」  翠良(あきら)はこれ以上に楽しい催しはないといった風情で、喜々として杯を弄びながら碧志(きよし)をからかう。 「僕に言えないくらい楽しかったのかい? 僕が小松川財閥令嬢に無駄なお稽古をつけている間に、二人はそんなに仲良くなったのかい? 僕をのけ者にして?」  普段は妖艶な翠良(あきら)の目が、キラキラと輝いている。きっとこれが翠良(あきら)の本当の姿なのだろう。 「そんなことは断じて……! あ、いや……」  コホン、とわざとらしく咳払いを一つして、翠良(あきら)のからかいから逃れる為に落ち着こうと心がけた碧志(きよし)が、慎重に話し始めた。 「三越でドレスや小物、靴を幾つか揃えた。夜会服は真珠子(しずこ)が洋装に慣れてきてからあつらえた方がいいと店の者が言っていたので、外出着とダンスの練習用だな。帽子と日傘、手袋も揃えた。それから洋食を食べて、浅草で活動を観て、アイスクリームを食べて帰ってきた」  まくしたてるように説明した碧志(きよし)に、翠良(あきら)は少しつまらなさそうに言った。 「ふぅん。浅草まで行ったのなら、ついでに凌雲閣に上がってくればよかったのに」 「十二階か? それも考えたが、混んでいるし、真珠子(しずこ)は人出に慣れていないから、疲れるだろうと思って」 「そう。じゃぁ、真珠子(しずこ)。今度は僕と浅草寺に詣でて、凌雲閣に上って、帰りに梅園であんみつでも食べよう。二人っきりでね」  ふふ、と意地悪く笑って翠良(あきら)は酒をつい、と飲み干した。  そんな翠良(あきら)を眉根を寄せてにらむ碧志(きよし)と、二人の美しい従兄弟のやりあいにどんな顔をしていいかわからずに、ただ真っ赤な頬を隠して目を伏せるしかなかった。  その夜は酷く深く眠った。  意識してはいなかったが、やはり慣れない賑わいに疲れていたのだろう。
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