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第17話

「痛っ…!周くん、痛い」  しびれるような刺すような痛みに思わず肩をすくめた。  ……あれ?  この痛み。ちょっと違うけど、最近どこかで……  しかも場所もなんか覚えがある。なんだっけ。  記憶をたどろうとしていると、肩を抱いた周くんの手にぎゅっと力が入った。まるで思い出すのを邪魔するみたいに。 「ごめんね先輩?上書きしただけだから、気にしないでください」 「上書き……?」 「先輩は気にしないでいいから。ね?佐野さん」 「……」  顔を上げると、佐野が心底不快だっていうのを全然隠そうともしないで立っている。  周くんは私との距離をもとに戻すと(でも手はしっかり腰に回ったまま)、佐野に向かって仰々しく頭を下げてみせた。  そしてゆったりと顔をあげると、見惚れるほど綺麗な笑顔を浮かべる。 「先輩はこんな感じの人ですし、色々と無駄ですよ」  色々と無駄、って……えっ? 「あま……四ノ宮くん、今何気にけなしたよね?私のこと」 「いいえ?」 「うそ絶対」 「馬鹿らしい。付き合っていられんな」  私の声を遮ったのは佐野だった。  学生時代の論議でも白熱した会議中でも聞いたことがないくらい低くて、よく通る佐野の声に身体がかたまる。  佐野は私に冷たい視線を投げると、周くんにはこれ見よがしなため息を吐いた。  それ以上は何も言わない。私たちの横を通り、エレベーターへ向かおうとするのがわかった。  すれ違う瞬間、周くんが涼やかな声で言う。 「……やっぱり、伝えるつもりはないんですね」  お互いに顔を見ないまま、佐野は低く答えた。 「……何の話だ?」 「僕の監視を命じられていたにも関わらず先日叔父から聞かされるまで気付かなかったなんて、佐野さんらしくないですよね」 「……何の話だと言っている」 「それはあなたがいちばんわかっているでしょう」 「わからないな」  静かに散る火花に私が入る隙はない。  周くんも佐野も、声は荒げていない。穏やかすぎることが逆に怖かった。  ただ周くんの隣で俯いていることしかできない自分がくやしいけど、いま私が口を挟む余地なんてない。 「僕から伝える趣味はありませんよ。中学生じゃあるまいし」 「わからないと言っているだろう」 「あなたがそのつもりなら、それでいいですけど」 「………」 「ああ、監視は続けてくださって結構ですよ。あなたの役目でしょうし」 「……四ノ宮。おまえ」 「仕事上はこれまで通りでお願いします。その面では尊敬してるんです、これでも」 「…………」  佐野は答えない。  私は顔を上げられないからどんな顔をしているのかはわからない。  周くんが佐野を振り返っていないことだけは、視界に入っているからわかる。  そして佐野の足音がだんだん遠くなっていくことも、わかった。
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