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第16話

「……やっぱり嘘でしたね」  冷ややかな周くんの声と、視線。  それを辿ると、私の腰にしっかりとまわされた佐野の手があった。 「周く」 「大丈夫。わかってますよ。佐野さんが離さないだけってことくらいは」  フンと息を吐いた周くんからは、つい数時間前まで見せていた懐っこい『後輩の四ノ宮くん』なんて微塵も感じない。  いいの?  そんなところ佐野に見せちゃって、いいの?  佐野の前でそんなことを口に出していいかすらわからなくて必死に周くんを見ていると、ニィっと笑った。 「心配には及びませんよ。大朏センパイ」  呼び方変わった。  と思ったのは私だけじゃなかった。 「琴乃……じゃなかったのか?」 「いちおうここ、会社なんで」 「さっきは言ってただろう」 「さっきは電話なんで。僕がいたのは会社外ですし」  ああいえばこう言う。  可愛くない『四ノ宮くん』は健在だけど、表情が日中と全然違う。  あの聡彦とかいう中年男に対しての態度とさほど変わらない。ただただ、冷ややかだ。  感情が見えなくて、はりついた笑顔だけが綺麗で、それが怖い。 「……で。そろそろ離していただけますか?佐野さん」 「こいつはモノじゃないんだろう?」 「モノではないです。だから彼女の意志に反することをするのはどうかと思いますよ」 「そうか?特に嫌がってもないだろう」 「ちょっ、佐野!嫌がってるから」  必死にあがいてみるけど、佐野の力は案外強い。  こんなに佐野が近くにいるのは初めてで、だからワイシャツの下が意外過ぎるほど筋肉質だなんてことも知りたくもないのにわかっちゃってる。  周くんは涼しい顔をして、ふうん、と小さく呟く。そしてニッコリと笑った。  即座に右手が伸びてきたと思ったらそれを佐野が左手で受け止める。瞬間、腰にあった佐野の右手の力が緩まる。あわてて抜け出しかけたところで、周くんの左手が私を引き寄せた。 「……周くん」  あっという間に私の身体は周くんの胸元におさまる。  5秒もなかった。本当にあっという間だった。  ほっとして、思わず周くんの胸に頬をすり寄せる。 「ほんっと、仕方ない人ですね」  周くんはため息と一緒にさらりと私の髪を指で梳いた。  んん、と咳払いがきこえて振り向くと、佐野が腕を組んでいる。 「佐野さん。まだいらしたんですか」 「悪いか」 「さっきも言いましたけど」  私を背中に隠すように前に立った周くんは、佐野と同じように腕を組んで首をかしげてみせた。 「僕の監視係はけっこうなことです。叔父に言われたんでしょうしあなたに断る権限もなさそうだ」 「ずいぶんな言いようだな」 「事実でしょうし?……でも」 「わっ!?」  今度は周くんに腰を抱かれ―――というか、思いきり抱き寄せられる。  ぴく、と片方の眉を上げた佐野が腕を組み直した。  この顔知ってる。  本来の佐野は感情を隠そうとしない。それでしょっちゅうゼミ仲間とも喧嘩になった。仕事をするようになったら当たり前だけど表面を繕うことを覚えたっぽかった。  でも、今の佐野は社会人の『佐野』じゃない。  ただの佐野だ。 「『でも』……なんだ?」 「彼女はダメです」 「お気に入りのオモチャを取られたくない子供みたいだな」 「それはあなたの方では?」 「……何?」  周くんは私の首に唇を寄せてくる。  こんなところで、と抵抗する間もなく首の後ろにチュウ、と吸いついた。  
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