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第15話

「……佐野」 『佐野さん?』  思わず出た声に、周くんが反応する。  佐野はコキッと首を鳴らして私をじっと見た。私を、というか、持ってるスマホを。 「ふうん。今度は電話プレイか」 「なっ」 「社内でみっともないことするな」 「してないよ!し、資料作ってて今帰るところだから」 「……そうか」 「佐野もお疲れさまでした!」  頭をさげてすれ違う瞬間、フゥと小さなため息がきこえた。  また嫌味のひとつでも言われるのかと思って、佐野の方を見る。 (目が合っ……) 「……っ!?」  その瞬間腰を引き寄せられ、顎をつかまれて佐野の顔が目の前に―― 「ちょっ……やだ!」  ―――バシッ!  鼻先がかすめたと思った時には思いきりひっぱたいていた。 「……あ……」 『琴乃さん?』  人をひっぱたいたことなんて今まで1回もない。  初めて知るジンジンと痺れた感覚の手のひらと、私に左頬を見せた状態で止まっている佐野とを見比べた。  今、佐野は何をしようとした?  腰にあるこの手は何? 『琴乃さん?今の音は』  周くんにくり返し呼ばれてる。わかるけど、頭がうまく働かない。ゆっくりと動きだした佐野から離れたいのに、私の腰を引き寄せた右手がガッチリと離れてくれない。  震えながらなんとかスマホを耳元に寄せる。あまねくん、と呼ぼうとするのにうまく声にならない。 「………まね、く……」 『……わかった。スピーカーオンにして佐野さんに向けて。この携帯』 「ぇ……っ」 『いいからオレの言うこと聞いて。……琴乃』 「……っ!」  琴乃。  滅多に呼び捨てなんかしないのに、こんな時に。  言われた通り佐野にスマホを向けた。  いつの間に体勢を整えたのか、佐野はすぐそばで私を―――スマホを見据えている。 『佐野さん?そこにいますよね』 「……いるが」 『琴乃から手を離してください』 「……オレのモノに手を出すなということか?若いな」 『そういう言い方は嫌いです。琴乃はモノじゃない』 (周くん……) 「手ならとっくに離した」 「ちょっと佐……!」 「それで?」 「んむ!」  大きな佐野の手に口をふさがれて暴れても、腰に回った手も何も動じる気配がない。  ずっと身近にいたヤツだけど、こんなこと知らなかった。 (周くん、周くん……!)  『佐野さん。あなたの行動監視には目をつむってましたけど』 「……何のことだ?」  それまで一切表情を変えなかった佐野が、ぴくりと眉を反応させる。  私も今の周くんの言葉が理解できない。 「行動監視……?佐野が?だれを……四ノ宮くんを?」 「何を言っているかわからないな」 『誤魔化しても無駄ですよ』 「……何のことだか」 『あなたが叔父の管理下にいることは最初から知ってますから』 (叔父……って)  バーで会った失礼な中年男。  周くんのことを「次期社長なんて認めない」って指さして、実際反対派っていうあの男。  佐野があいつの…… 「何を言っているかわからないな。切るぞ」 『かまいませんよ』 (……あれ?なんか周くんの声が近く……) 「すぐそばまで来てるんで」  スマホと背後。  2重に聞こえた声に振り返ると、いつもの『四ノ宮くん』の表情を保ちながらも首元に汗を滴らせた周くんが立っていた。  私を――私と佐野を見た周くんの(まと)う空気がチリっと尖ったのがわかった。 
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