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第14話

・・・・ 「えっウソ!」  20時を回ったことに気付き、急いで作成中の資料をPCに保存した。  営業職がメインだけど、時には上司たちに書類作成を頼まれることも珍しくない。うちには営業事務という独立した仕事を持つ社員が少なくて、手が空いた営業がお互いに担うこともあった。  課長に頼まれた部署としての資料と、自分が主体となる取引で使うための資料。締切がかぶってないのが幸いだし課長からの方は再来週だからまだ手を付けなくても大丈夫ではあるんだけど、やっぱり余裕はもっておきたいし。  周くんに手伝ってもらった例の資料も、そのひとつだった。  使用した会議が成功したらしく、大喜びした課長に褒められたまでは良かったんだけど。  資料が適切でクライアントにも好評だったとかで、次のも頼むと言われちゃって、これだ。 「……もう誰もいないし」  立ち上がってオフィスを見渡すと、誰もいない。  どれだけ集中してたんだろう。  課長に残業申請したところまでは覚えてるのに、誰に挨拶されたのかとか全然記憶にない。 「……佐野ほどスケジュール詰まってないし、いいんだけどね」  ひとりになったオフィスでは勝手に愚痴も出る。 「よし、保存オッケ、電源オフった……あとは」  ブブブブブブ。  その時、デスク上のスマホが揺れながら動いた。差出人は、『四ノ宮周』。 「……あっ!」  しまった、今夜会おうと思ってたはずだったのに残業になったって連絡をしてなかった。  そうだった、あんなお仕置きをされたあとにも仕事はたくさんあって、だから必死に忘れようとして、仕事に集中しなきゃって――― (……なんだったんだろ、アレは)  今まで見たことない周くんだった。  意地悪で、しかもお仕置きって言われても全然わからなくて……  思い出しただけで頬が熱くなってくる。 「って何考えてんの……とりあえず電話」  周くんの番号を引き出して肩にスマホを挟みながら、デスク周辺の片づけとチェックを続ける。電話の向こうで何度か呼び出し音が鳴った。 『琴乃さん?』 「周くん、ごめん、私残業しててまだ会社に」 『うん知ってる。帰る時声かけたけどすごい集中してたから』 「……ごめんね」 『いいえ?だってそれ、オレのせいでもあるんでしょ』 (……『オレ』) 「ち、ちが」 『今の間は何?』 「だ…だって周くんがオレって」 『ああ』  クスッと笑うのが聴こえる。  ふたりきりの時しかきけない、甘くてやらしくて低い声。 『だってオレもわりとヤバいから』 「やばいって……」 『言わせたいの?早く琴乃さんを抱きたいってことだよ』 「……っ!」 『あれ、黙っちゃった』 「な……なんか周くんキャラ変わらない?」 『えー?そうかなぁ』 「だ、だって、コピーの時だって……」 『コピーの時?なーに?』 「ほらそういうの、なんかすごく」 『うん、すごく?』  いじわるに笑ってるのがわかる声を聞きながら、私はカバンを手にデスクから出入り口へと向かった。  電話は耳元でささやかれてるみたいで周くんを近くに感じられるのが好きだけど、なんか今はすごく恥ずかしい。色々思い出しちゃって、耳や頬だけじゃなくて身体まで勝手に熱くなってくのがわかる。 「……いじわる」 『そんなことないよ?』  周くんがまた笑って、そんなことあるよって言おうとした瞬間目の前に大きな影がよぎった。あっと思ったけどもう遅い。  ―――ドンッ 「……っ!」  直前まで俯いたまま電話してたから、前から来た人に気付かなかった。 「ごっごめんなさい!」  あわてて顔を上げて謝った相手は―――
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