1 / 55

第1話

 大きな手が背中をなぞっていく。  彼ーー(あまね)くんの体温は私より高くて、だから手もあったかい。 「相変わらず……冷たいね」    言いながら周くんは耳元で笑う。  息が耳たぶに触れてびくりと震えた。するとまた周くんは耳元で笑う。時折、ふ、と吹きかけてきて、その度に反応する私を周くんは喉の奥で笑う。  あったかい右手は背中を行ったり来たりするだけで、そこ以外に触ろうとしてこない。左手は私の腰にまわり、周くんの腰へ引き寄せられていた。 「……ちょっと……」 「なーに?」    引き寄せられているからわかることもある。  下着越しだからこそ、素肌よりも妙にリアルっていうか。 「……当たってる」 「あはは、バレた?」 「あははじゃないの」 「元気でごめんねー?」 「あのね……」    当たることにどうこう言うんじゃなくて。  部屋に来るなりベッドに押し倒して人を下着姿にしておいて、背中を撫でられるだけにとどまってる今の状態がじれったい。 「焦れったい?」    見透かしたように、目の前に迫った周くんの目が笑う。  こういう時の周くんは心から楽しそうだ。  なんて言ったらいいのかわからないけど、とにかく楽しそうに笑う。生き生きしてるっていうの?よくも悪くも年下の可愛らしさは皆無だ。  最初の夜もそうだった。  さんざん焦らされて焦らされて、恥ずかしすぎて絶対言いたくないと首を振ったのに、「琴乃さんが自分からねだってくれるまではしない」って笑顔で言い切った。……ってなんで今こんなこと。 「……言ってくれないんだ?」  周くんの声が低くなる。  この声にいつもゾクッとしてしまう。  わかってるのに頭の奥がジンジンしてくるような、麻痺していくようなおかしな感覚に陥っていく。 「オレ、昨日から我慢してるんだよ?」 「そ、ん……っ、あ」    ――――ちょっと待って。    今周くんが言ったことの理由を思い出した。  こんな時にとは思うけど、大事な事。  昨夜は私も正直その気だった。ちょっと気合入れた下着つけてたし。  でも、ちゃんと終電で帰った。  その理由。 「……ね、周く……」 「反論は認めなーい」 「あっ……待っ」  周くんはさっきまで背中に触れていた手で、私の左耳に触れた。そのまま耳たぶを優しく撫でたかと思えばするりと髪へ逃げていく。  もどかしくて身体をひねると、優しく低い声にまた囁かれる。 「ね。してほしいこと、あるよね?」    ―――ある、けど、ちがう。  今はちがう。  私は必死に首を振った。  でも今の周くんには別の理由にしか受け止められないらしい。 「なーんで言ってくれないかなぁ?」 「……っ」 「でないとこのままだよ?」 「……待、って。まだ、………っ」    うまく声が出ない。  じれったいのも本当だしもっとしてほしいのも本音だけど、周くんと話したいことがあったのに。 「んー?聞こえなーい」    楽しそうな周くんの手はまた左耳に伸びた。  そして耳たぶを親指と中指でやさしく擦られる。左手は腰からおしりのラインへと移り、まるみをゆっくりと撫でていく。同時にされると弱いことを知ってるから。 「……きの、うの、……」    私は息も絶え絶えに、なんとか声をつなげようとした。 「……昨日?」    ぴく、と手が止まる。  周くんは私の顔をのぞきこんだ。私がうなずくと、ゆっくりと眉間に皺を寄せて細く息を吐き出す。  少し思案した様子のあと、ゆっくりと身体から手が離れた。
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!