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第53話

「……ホントにさ、社長なんて継ぐつもりなかったんだ」 (過去形……)  射るような目で私を見る周くんから視線を外せるわけもなく、捕まえられた蝶みたいに張り付けられたまま次の言葉を待つ。 「でも、琴乃が」 「……私が……?」 「琴乃が……オレをおかしくさせるから」 「え――あぁあっ」 「コレ好きだもんね?琴乃は……やらしいから」  ぎゅうと思いきり胸の先をつねられて思わず声が出た。でも周くんは意に介することなく膝と指で同時に愛撫を続けはじめる。興奮のためか初めて吐露してくれることからくる何らかのためか、周くんはだんだんと息が荒くなっていく。 「ずっとね、警戒してたんですよオレ……」 「ま、待って、あっ、あっ……!」 「あの人――佐野さんが琴乃のこと好きなの、最初っから知ってたんだから」 「んん……っ?な、なん……っ!」 「なんでって。そんなの決まってるじゃないですか」 「あ、っく…っ、ん……!」 「……同じ女に惚れてる男なんて、目見たら一発でわかりますよ」 「ぁあぁっ……!ん、んぅ……っ」 「だから……ね?琴乃を逃さないためならオレは、社長くらいなんだってことない……」 「ん、んっ………!」  もがいて開いた唇から無理矢理ねじりこまれた舌が縦横無尽に行き来する。  乱暴だ。こんなのは、違う。私は周くんを好きだし、周くんの愛情を疑ってなんてない。今の状況と周くんの話からして、嫉妬からこの状況になってることも理解してる。彼を落ち着かせるにはこのまま抱かれたらいい。今まで通り、翻弄されるがままに。 (……でも!)  いよいよ下着をおろされかけて必死に膝をすり寄せる。  ――今。今、抱かれるわけにはいかない。ちゃんと話せなくなるし、仕事に戻れなくなるのはもう嫌だ。佐野がどうって話じゃなくて、私が、嫌だ。  周くんと一緒にいたいと思ってる。わかりたいとも思う。だからこそ、今はいやだ。 (かわいげがなくてもいい) (ううん、かわいげなんて元々なかった) 「周く……っ、やだ……!」  キスの合間にしぼり出した声に、周くんの動きが止まる。  荒い息を続ける周くんの、放心したような瞳が、目の前で寂しそうに揺れた。  乱された胸元を抑えて息を整えながら、私はゆっくりと身体を起こす。手を伸ばして周くんの頬に触れた。  ……冷たい。  私の身体はこんなにも熱くなっているのに、周くんの頬はこんなにも、冷たい。 「……私、周くんのこと好きだよ」  目を見てゆっくりと、伝わるように声を紡ぐ。  いつもなら――今までなら「知ってますよ」って微笑む周くんの瞳が大きく開いて、そして―― 「証明して欲しいです」  かたちのいい唇がニィっとつりあがり、優雅に腕を組んだ。
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