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第52話

(今のってつまり) 「痛っ!」 「そりゃあまぁ、噛んだからね」  周くんから敬語が完全になくなった。一人称がオレになっただけじゃなくて、完全に恋人モードに変わった。  こんなこと、これまで一度もなかった。社外で会うときだって敬語混じりなのがクセで、こんな話し方はベッドの中でくらいでしか聞かない。そもそも最近外で会うのを避けてたおかげでこの話し方を聞くのは久しぶりだから、思わず頬が熱くなる。  ニコ、と笑った周くんは私のシャツに手をかけた。 「だ、だめだってば」 「そんな顔しといて?したいでしょ」  器用な指は簡単にボタンを外し、胸に伸びてくる。 (だめだまた流される…!) 「っ、待って、周くんは」 「なーに?」 「周くんは、っ……!」 「うん、だからなに」 「っ、ぅ、んん……っ」 「ほら言ってよ」  肝心な場所に触れることなく、やさしく胸を撫でたりなぞったりを続ける周くんは楽しそうに「早く続けて?」と笑った。  話そうと口を開けても、私の両脚を割った膝がグリッと押し付けてきて思わず違う声が出そうになって必死で閉じる。弱いところを膝でこんな風に、服の上から攻められるなんて経験今までなかった。  全部脱がされるわけでもなく、キスをされてるわけでもなく、胸をただ撫でられ、下は膝で責められ、こんなことで気持ち良くなりすぎてるのも恥ずかしい。 「ほら。なに?オレがどうしたの?」 「ぁ、あぁ、ん、周く、は……っ、あ」 「うん。なに?」 「ぅあっ……、あ、…、っ、端末、とか」 「端末とか?…ていうかあれ、もしかして濡れてる?下、膝越しでもあったかいけど」 「や、ぃや……っ!」 「ホーント、やらしい」 「ん、ぅ、……っ、ふ、ん……!」 「我慢してるその顔もエロくて最高だよね」 (なに、これ、……!) (周くんってこんな意地悪、だったっけ!?) 「ごめんごめん、話の途中だった」  言いながら背中に手がまわり、下着が外された。  それでもいちばん気持ちのいいところは触ってこない。胸の中心を避けて、やっぱりやさしくなぞったり撫でたりをくり返す。下は脱がされることなく膝だけで弄られ続けていた。 「で、なに?」 「ん、んん、……っ、ぅ、ん」 「ほら言ってよ。端末とかが何?」 「……っ、全部、…、私、っ、あ、あ……っ!」 「んー、全然わかんないなぁ」 「私がっ……ん、佐……っ野と……、――っ!?」 (急に吸っ……!) 「あ!ぁあ、んあっ、……ん、ああっ!」  突然胸を吸われて思わず声が出る。   ちゅ、ちゅうと強く吸って甘く噛んでをくり返し、周くんはようやく唇を離した。  私を見る周くんは怒ったように眉間に皺を寄せていて、もう全然、何が何だかわからない。だって聞きたいことがあっただけなのに。 「そんな甘い声であの人の名前呼ぶのはダメ」 「だっ……周くんが邪魔するから」 「邪魔?……あー、話の続き?」 「そうだよ、周くんが意地悪するから…!」 「意地悪じゃないでしょ?気持ちいいコトしただけ」 「……っ」 「ふふ、赤くなった。今、ちゃんと琴乃だね」 「え?」 「今は会社の大朏さんじゃなくて、オレの彼女だなって」 「あ……当たり前……」 「それで?」 「……周くんは、私が、その…佐野とふたりきりになるのが……」 (――ペーパーレス会議にするのが本当の目的?) (そうすれば、佐野とふたりきりになる確率は以前より下がる)  我ながら自意識過剰な質問かも、と語尾が弱くなった。  仮にも社長という立場の周くんが、ただ私と佐野のことだけで会社のシステムを替えるようなことをする?ふたりきりにさせないためだけに。 「その通りだよ」 「……え」 「今考えてること、たぶん当たってる」 「う、そ」 「何か問題でも?」 「問題…っていうか」 「ねえ、琴乃」  ふいに周くんが声を落とした。  顔を上げると、いつもの飄々とした雰囲気がまるで欠片もない。ドキリとして目を離せなくなる。
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