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第47話

「大朏さん。おかえりなさい」  課に戻った私をいちばん最初に迎えたのは、向こう側から戻ってきたらしい四ノ宮くんモードの周くんだった。  なんでか胸が痛いけど、今は仕事中。公私の切り替えくらいできる自分に戻らないと、これ以上に情けなくなりたくない。  背筋を伸ばし、社内モードを意識してまっすぐ周くんを見た。 「ただいま。というか、四ノ宮くんもおかえりなのかな」 「はい。僕も戻ってきたところです」 「どこから?」 「皆さんにお報せを持ってきました」 「え?」  答えになってない。  と思いながらも、課長のところへまっすぐ向かった周くんを目で追いつつデスクに戻った。 (お報せ…?) 「あーちょっと注目してくれ。手を止められる奴は止めて」  デスクに置かれていた新たな打ち込み書類に手をかけようとしたところで、課長の声が響く。  課内はどうしたと少しざわつきながらも、言われた通り課長へと目を向けた。  立っている時はいつも両手を後ろにまわしたいわゆる「休め」姿勢のになる課長の隣に、何やら端末を持った周くんがいる。  課長と周くんはふた言み言声を交わし、頷いた周くんが口を開いた。  「総務から連絡です。当初は朝礼での発表を予定していたそうなのですが、少々ごたつきまして」 (総務……?) 「なんでしょうね?消耗品つかいすぎとかのお小言…?」 「とりあえず聞こ」    ヒソヒソ話しかけてきた天崎を制して続きを待つ。   周くんは課内を見回し、少し意味深に唇の端を上げた。 「我が社もペーパーレス会議を取り入れることになりました」 (……え?)  一瞬静まり返った課内が、ワッと湧き上がる。 「マジか、四ノ宮!?」 「マジです。なお、タブレット端末は明日の全部署配布です。現在作成中の資料までは申し訳ありませんが従来のまま、午後の会議はコピーが必要となりますのでお願いしますとのことです」 「了解了解!」 「そんなん任せろって!」  周くんは興奮さめやらぬ課内を綺麗な微笑みで見つめ、一礼してから課長と何やら話しこんでいた。課長が神妙そうに頷いて、周くんも応える。  なんだろう、なんか、違和感。  もしかして課長は周くんの正体を知ってるのかもしれない。ふたりのやりとりはこれまで見てきた「新人と課長」のそれではなくなっている気がする。 「これで大量のコピーとおさらばですよ大朏さん!」  天崎が声を弾ませて私に抱き着いてきた。  私はといえば、周くんから目を逸らせないまま、天崎に頷くことしか出来なくなっていた。 (最新PCに、ペーパーレス会議実現化……?) (短期間でこの行動力……やっぱり周くんは)  周くんから目を逸らせないでいたら、なぜか近付いてきていることに気付く。  えっ、と思った時には遅かった。 「大朏さん」 「……へっ?あ、四ノ宮くん?どうし」 「少しいいですか。午後の会議の資料、お願いしていたと思うんですが」 「え、あ?うん」 「しっかりしてくださいよ。そんなにペーパーレス化に感激したんですか?」 「当たり前だよ四ノ宮くん!大朏さんがいちばん忙しいんだからね。準備が早いからって」 「ああ。そうでしたね」 「……ごめん、ぼうっとしてた。何?人数に変化でもあった?」 「ええまあ、だいたいはそんな感じですが。ちょっとあちらで」 「え?いいけど……」  横から口添えしてくれた天崎にお礼を言い、私は周くんと廊下に出る。  社内でもふたりになるのはあの日以来で、社内なのにと思うのにこれまでとは違う緊張の汗が背中をつたっていくのがわかった。
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