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第43話

「……ん、……っ、ぅ」  佐野の胸を必死に押し返そうとしていたはずの手は、佐野によって簡単に崩された。  唇から広がっていく毒みたいな痺れから力が抜けてしまい、佐野はそれを見逃すはずもない。脚の間に佐野の膝が割って入ってきている事には気づいていた。気づいてるのに、自分でもどうしたのかわからないくらい抵抗する力が抜けている。  知らなくても良かったことだけど、佐野のキスは情熱的で……抵抗さえしなければ、優しい。仕事も勉強もできるけどプライドも高くて仏頂面で頭がかたくて、学生時代から勝手にライバル視してた佐野と、今私はキスをしてる。  好きだと言われた。エレベーターでキスをしたのも、好きだからって。  脚に当たるの熱さも、私が好きだからだって。 (好き?……私を?)  もはや挟まれていただけの手が床に向かって垂直に落ちる。  同時に、佐野が唇を離した。 「……どうした?抵抗はやめたのか。なら」 「佐野」 「なんだ」 「佐野はなんで私のこと好きなの」 「は?」 「恋人がいるくせに簡単にあんたにキスされるような女のどこがいいの」 「簡単じゃなかったが」 「隙があったんでしょ」 「否定はしない。あと感じやすいのが悪い」 「っ、ん!」 「尻を撫でただけでこれだ」 「……」 「殴られると思ったんだが」 「むしろ私を殴ってほしい」 「はあ?」 (なんで……) (なんで周くんじゃないのに気持ちよくなってんの)  情けなさと悔しさで涙が出そうだ。  うつむいたら、上からベシッと叩かれた。 「いったぁ!!」 「やめだ」  顔を上げると、佐野は私から離れて長机のひとつに腰かける。  準備した資料を使うこの後の会議に出席するから、間違ってはいない。でも―― 「……佐野?」 「なんだ。ここで俺に抱かれたいのか。大胆だな」 「んなわけないでしょ!」 「何故好きかと言ったな」 「えっ」 「俺にもわからん」 「……は?」 「さっぱりわからん。間違いならそう言ってほしいくらいだ」 「はあ!?」  思わず佐野の前まで駆け寄る。  私を好きだなんて何かの間違いだと思いたかったけど、本人にまで言われたら立つ瀬がないというか、どうしたらいい。  時計を見る。戻らなきゃ。そろそろ怪しまれる。サボってるって思われる。せっかくソッコーで終わらせたのに。  頭ではそう理解してるのに、足が動かない。  佐野は表情ひとつ変えないまま私を見上げた。 「……でも、仕方ないだろ」 「仕方ないって」 「大学の頃からだ。もう気のせいだとは言っていられない年数が経っている」 「だっ……」 (大学!?) 「筋金入りだろう」 「な、そんな素振り、全然」 「何かの間違いだと思いたかったからな」 「仮にも好きな女に対する思考じゃなくない?」 「……それに、自分のものにしたかったわけじゃない」 「え?」  佐野がまっすぐ私を見る。  いつもと変わらない。大学時代から何も変わってない。  仏頂面でプライドが高くて、でもそれに見合う実力のある、よく知ってるはずの―― 「お前がお前らしく生きてるのを傍で見てるだけで、良かったんだ」  ――ううん、全然知らない男の目をした佐野が、やさしく微笑んだ。
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