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第42話

 初めて聞く佐野の声にも言われた内容にも動揺して、身体がかたまる。  私の身体を抱きしめる力が強まったけど、ふりほどこうとする気力がなかった。 「な、何…言ってんの、不安とか」  ようやく出てきた自分の声が別人みたいに弱気だ。 (……佐野の言う通りだ)  最近の私はおかしい。  会社だっていうのに周くんに触ってほしくなったり、変に弱気になったり。周くんに関することに過敏になりすぎてる。  今だって佐野に抱きしめられてるっていうのに、不安を言い当てられたことくらいで動揺して抵抗する力が抜けて、喉の奥がヒリヒリしてきた。この感覚は知っている。子供の頃に覚えた、泣くのを我慢しているときの感覚だ。 (……こんなことくらいで泣きたくなるなんて) (こんなの、私じゃない) 「やめたらどうだ」 「……え」 「どこでもお前を抱くくせに不安にさせるのは、恋人としてどうかと思う」 「ちが、周くんは」 「『周くん』か」 「……っ」  佐野の力が強すぎて、痛い。  少し身じろぎするだけで力を込めなおされて、まるで縛られているみたいに痛む。 「佐野……痛い、離し」 「大朏」 「……っ!?」  佐野の手が耳に伸びた。反射的に身体が震える。  震えたことにまた動揺して、あわてて身体を離そうとしたけどやっぱり無理だ。佐野は長く息を吐くと、耳から髪へ、そして首筋へと場所を変えながら撫でていく。 「ちょっと、……やめ」 「……敏感だな」 「やめて」  反対の手は腰にまわり、ぐいと佐野の中心を押し付けてくるように動いた。 (……っ!?) (ま、待って、なにこれ……!) 「当たるか。済まんな。わざとだ」 「な、な……っ」 「好きな女を腕の中に抱いていれば至極当然の反応だろう」 「やめ……え?」  顔を上げる。  上げたことを後悔するくらい佐野の顔が近くにあって、そしてその顔があまりに男らしくて、ぜんぶの動きが止まってしまった。 (……好きな、女?)  周くんが言ってたことを思い出す。  エレベーターでの佐野の言葉を思い出す。  私だってそこまで純情キャラを演じるつもりはさらさらないけど、でも、佐野に限ってはそんなことないと思ってた。だって昔から顔を合わせれば皮肉かため息ばっかりで、いいライバルで、それで―― 「もう隠すのはやめだ」 「ん、な」 「四ノ宮にもいいように言われるだけだからな」 「なに言って」 「最高に不細工なツラを晒しているが……気がつかなかったとでも?」 「……っ」 「好きでもなきゃキスしないだろう」 「そ…うだけど、あんたなら嫌がらせにだってキスくらいしそうな」 「否定はしない」 「なら」 「でも違う。俺は大朏が好きからキスしたし、今は勃ってる」 「ちょっ……やめてよ!」 「声に力が戻ってきたじゃないか」 「変態…!」  隙をついて佐野の腕から逃れて出入り口に向かおうとした、のに。 「大朏」 「やっ……」  簡単に腕を掴まれ、背中から壁におしつけられた。 「佐野、痛い」 「こうしないと逃げるだろう」 「仕事は終わったから戻るだけ」 「時間に支障はない」 「ある!それに、誰か来たら」 「俺にしろ」 「どうす……、……え?」 「俺にしろ。大朏」  何を言ってんのと言いかけた唇に佐野の親指が触れ、熱い舌先がすべりこんできたことを頭が理解するまで時間がかかった。  そのくらい急で、早くて、なめらかで、 (……っ!やだ、……!) 「ん、ぅ……っ、は……」  ――嫌だという気持ちが切り離されていくくらい、感じてしまった。
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