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第41話

・・・・・ 「……ココは原始的なままなんだね」  空っぽの会議室でひとり、並べ終わった資料を眺めて缶コーヒーを開けた。  あれからどこか浮ついたみんなと一緒に仕事を進めて、それでもいつもどおりの仕事をこなすだけ。例の件が終わった今特別急がなくちゃいけない案件もなくて、他チームのアシストに回ったり、こうして雑用をすすんで引き受けるくらいの余裕はある。 「今時紙の資料を配るって言ってびっくりされたこともあるっつのね」  たとえば大学の同窓会とか。  偶然会った学生時代の友人とか。  それなりに大きな会社に就職した人たちからは特に、「コピーを頼まれる」こと自体昔のドラマや漫画ででしか知らないって言われたことだってある。  もちろん私も最初こそびっくりしたけど、これはこれで嫌いじゃない。ひとりになれる時間もらえてるようなもんだし、早く終わればこうやってひと休みできるし。  でも、端末が最新化したことを考えると―― (やっぱかなり原始的)  笑いながら窓に手をかける。換気がしたい。  少しだけ開けた窓から風が入ってきた。頬がひんやりして、頭も冷えていく。 (ひとりになりたかったけど……) (いざなると、マイナス思考に陥るの悪いクセだな) (……佐野に言われたからじゃないけど) 「……ほんと、私らしくない」 「サボりか」 「はっ?」  突然聞こえた声にあわてて出入り口をみると、佐野が立っていた。  腕を組んで、心底不愉快そうな声をしてる。ちなみに顔はいつもの仏頂面のままだ。ドアを閉めて近づきながら長机を見渡した。 「訂正する。終わってはいたのか」 「予定より早く終わらせたんだから、小休止くらい見逃してよ」 「小休止?」 「悪い?」 「いや」  佐野は目の前までくると、目を細くして私を見下(みお)ろした。  身長差があるから当たり前なんだけど、なんか……見下(みくだ)されているように思える。たぶん、勘違いじゃない。  だって、口元がちょっと歪んでる。嗤ってる。佐野本人も隠すつもりなんてないレベル。 「……なんなの」 「朝からヤれば小休止も必要だろうなと納得しただけだが」 「なっ」 (佐野はあの時外にいなかったはずじゃ――)  恥ずかしさと混乱で頬が熱くなってきた。  伸ばされた手に気付かなかったのは、佐野の目から離せなくなってたからだ。腕を掴まれてハッとなる。目を細めた佐野が近すぎて顔も逸らせない。 「……ドアのすぐ外にいた」 「えっ」 「社長室は防音じゃないらしい」 「さ、佐野」 「あんな声出すんだな」 「佐野、腕痛い」 「以前エレベーターでキスした時よりずっと甘いし高くなっていた」 「ちょっとやめてよ」 「課に戻ってきたときも抱かれましたという顔のままだったぞ」 「やめ」 「恋人と秘密の情事がお好みか」 「やめてってば」  耳をふさぎたくなるような話を、佐野は淡々と続ける。腕をふりほどこうとしても力が強すぎて無理だ。  ギリ、とさらに強まって、思わず顔をしかめる。 「痛っ……」 「なのに何故」  ――と思ったら視界が真っ黒になった。急に何かに引き寄せられて目をつむったからだ。目をあける前に気付いた身体を包むあたたかさ、これは―― 「……佐野、離し」  広い胸の中、身体をよじらせた私を佐野は閉じ込めようとばかりに強く抱きしめる。 「何故お前はそんな顔をしている」 「離っ、……?」 「何故そんな不安そうな顔をしているんだ」  今まで聞いたことのない佐野の小さな小さな声が、私の耳に入ってきた。
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