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第40話

 課に戻ると、心配そうな顔をした天崎が迎えてくれた。 「大朏さん!おかえりなさい」 「ただいま」 「大丈夫でした?……?なんか、ほっぺ赤くありません?」 「あ、ちょっと走ったからかな」 「っていうかなんだったんですか、あのおじさん」  声をひそめて訊ねてくる天崎に同意するように、まわりのみんなも少し興味深そうにこっちを見てくる。 「……なんなんだろうね?あ、佐野はなんか言ってた?」  社長室の外にいたらとある意味緊張してたけど、いなかった。  今も自分のデスクで涼しい顔して何やら打ち込んでいる。時々部下に声をかけられて指示とかしてるし、よかった。万が一にも聞こえてなんかいたら、さすがに死にたいくらい恥ずかしい。 「いいえ。よけいなこと気にしないで自分の仕事しろ!で終わりですよ」 「ぶっ、似てる」  佐野の物まねをしながら話す天崎に思わず吹き出して、でもやっぱりそうくるかと内心納得する。  佐野はウソをつくのが上手いわけじゃなくて、いつもあんな感じで通してるからウソついてると思われにくいんだ。たぶん。  天崎はさらに私に寄ってくる。なに。近い。 「っていうかー、あやしいと思いません?」 「えっ?」 「四ノ宮くんと佐野さん。なーんか、あやしい」 「そ、そう?四ノ宮くんが懐いてるなって思ってたけど」 「最初はそう思ったんですけど、最近なんか……」  そこで区切ると、一段と声をひそめてささやいた。 「時々、ふたりに妙な空気流れる時あるんですよ。冷戦?みたいな」 「そうなの?」 「佐野さんは元々そんな感じですけど…四ノ宮くんは、ねえ?」 「…そうね」 「女でも取り合ってんじゃないかって話です」 「おん」 (なんでそんな話に!?) (……でもまぁ、社長云々のことが今噂されるよりはマシ…なのかな) 「あくまで噂ですけど」 「そう……」 「あ、四ノ宮くん帰ってきましたね」  顔を上げる。  周くんは温和な表情を保ったまま、デスクへ戻っていった。立ち上がった佐野がそっちへ向かうと、周くんも顔を上げる。声は聞こえない。でも、当たり前だけど、仕事のことを話してるはずだ。  つい数分前までしていたことを思い出し、頬がカッと熱くなる。佐野と話す唇、パソコンに触れる指、きちんとしまったシャツ。そして、ここからだとデスクに隠れていて見えない下半身―― 「大朏さん?大丈夫ですか?」 「あっ、うん、大丈夫」 「顔赤いですよ?体調悪いとか……」 「ほんとに大丈夫だから、ありがと」 (……何考えてんの。しっかりしろ) 「今日の分確認して指示まわすから、ちょっと待ってて」 「わかりました」  頭を仕事に切り替えないと。  パソコンを立ち上げて仕事を開始する。こうすれば自然と仕事モードに切り替わるはず。今まではそうだった。  佐野に指摘された通り、最近の私はおかしい。こんなの私じゃないし、このままじゃ周くんに迷惑をかけかねない。だって、次期社長が本決定するかもしれない人だ。  ちくんと胸が痛む。  別れるべきだと正面から聡彦に言われたことが頭を過ぎった。たしかに考えた。でもあの時は、まだ社長(仮)だったから気にしないようにすることも出来た。 (でも今は……)  社長も悪くないと笑っていた周くんを思い出す。  まだ若くて、頭だっていい。仕事の吸収力だって抜群だ。柔軟性もある。今回のことで行動力もあることがわかった。充分将来性のある若社長になれる。 (……その恋人が仕事中にもセックスに流されるような女だったら…私なら、やだな)  あの日噛みつかれた首筋の痕をシャツの上からなぞり、私は息を吐いた。
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