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第37話

 社長室の応接室。  以前にも呼び出されてきたことはあったけど、今日はひとり多い。  私と周くん、聡彦と佐野が向かい合うようにして応接室のテーブルを挟んでいる。でも、佐野は座らない。聡彦の後ろに――つまりソファの後ろに、控えるように立っていた。それだけでふたりの関係性がわかるっていうものだ。 (こんなの……佐野じゃないみたい)  大学時代からプライドの高さは安定していた。中には反感を抱いてた人だって少なくないと思う。というかぶっちゃけ多かった。でも、話がわからないヤツではなかったし、伴った実力もあったから、私は嫌いじゃなかった。むしろ、有言実行を貫き通すさまはいっそのこと清々しいとさえ思ってた。 「周。おまえ、社長室(ここ)の扉も変えたのか」 「ええ。別に珍しくもないでしょう?認証システムは楽ですしね」 「目を離すとすぐ勝手なことを!」 「勝手ではありますけど、必要な事です。社長室ですよ?社内でも重要なものを保管してある箇所だってある。これまでのキーでは不用心すぎます」  ぼんやりと佐野を見ている間にも、周くんと聡彦の言い合いは続く。 「……端末の一斉買替えも必要なことだと?」 「もちろんです」 「無駄遣いはしておられんのだぞ。経費削減が我が社のモットーでもあり、何より社長が交代するかもしれないという不安定な時にだな」 「無駄遣い?何を言っているんです。ひと足もふた足も他社から遅れをとっているようでは、より余計な費用がかかるというものです」 「周!」 「それに社員たちの顔、見ましたか?実際仕事をしているのは彼らです。彼らが作業しやすくなったのなら何よりの収穫でしょう。……ねえ、佐野さん?必要だと思いませんか?」 「否定はしない」 「佐野!」  青筋でも立ってそうな聡彦が佐野を振りかえる。  なんか、イライラしてきた。このオッサンはなんで周くんにも佐野にもこんなに偉そうなんだろう。たいして役にも立っていなさそうなのに。 「おまえは反周派だろう!」 「……ですが、端末に関しては以前からどうにかならないかといった類の社員の意見を聞いていましたし、自分も思っていました。この件に関しては四ノ宮を否定できません」 「さすが佐野さんですね」 「ぐっ……」 (……佐野)  聡彦は悔しそうに顔を歪ませて、周くんを真正面から指さした。  周くんは表情ひとつ変えないで――むしろよりいっそう涼しげな顔をして首を傾げる。 「おい周。いったいどういうつもりだ?」 「何がです?」 「社長になる気はさらさらないと言っていたよな?こんなことをして何が狙いだ?」  周くんの長い脚が――組まれた方の脚が揺れた。  にっこりと笑って、答える。 「社長になる気はありませんよ」 「だったら!」 「旧体制の、ふるくっさくてどうしようもない会社の社長には、ね」 「……なんだと?」 「四ノ宮、お前……」 (って、どういう……)  聡彦と佐野、そして私の視線が一気に周くんへ集まった。  全員の視線を受けた周くんは、まるでドラマの探偵役みたいに唇の端をあげて笑う。 「物質的にも体勢的にも旧いままで時代遅れだった会社(ここ)が、僕の元で変わっていける会社なら……話は別、ということです」  組んだ脚の上で頬杖をついた周くんは、これまで見たことのない「社長」の顔で、美しく笑った。
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