10 / 55

第10話

 ひとり残された私は、しかたなくまた膝を抱えた。  舌先で味わうように舐められた唇が熱い。  舐められたあとを自分の指でなぞってみても、あの痺れるような感覚には遠かった。どうやったって、周くんが私に与えてくれる快感なんて自分じゃ再現出来ない。  もぞりと足を擦りあわせる。  ごちそうさまって言って出て行った周くんの表情を思い浮かべると、じんわりと身体が熱くなってくる。あれで周くんは満足したの?私は全然、足りない。 「……いじわる」 「誰が?」 「っ!!??」  私が顔を上げるのと、パーテーションの向こうから見慣れた顔がひょっこり出てくるのは同時だった。 「……っ、さ、の」 「バカ面だな」  現れたのは、手にした分厚いファイルで自分の肩をトントンと叩くようにしながらこの上なく冷たい目をした――佐野。  パーテーションを乱暴におしやって、私の目の前まで近づいてくる。 「しけこむなら他に誰もいないことを隅々までチェックしてからやれ」 「しっ、しけこんでなんか」 「へえ?」  混乱でうまく頭がまわらないから反論できない。  足を下ろすのに精いっぱいだ。  ヒールを脱いでソファで膝を抱えるなんてみっともないところを、いや、今はそれだけじゃなくて、え、全部聞かれてた……!?  佐野は黙ってその場にしゃがみこむと、下ろした私の脚をひょいと抱えてソファに放りだす。  バランスが保てなくて、寝転がりかけてしまった。そこに佐野が()し掛かってくる。 「ちょっ、何す」 「物足りないんじゃないのか?オアズケくらって」 「っ!」 「そういう顔してるぞ」  スカートのすそからするりと手が入り込んでくる。  慌てて上から抑えつけて起き上がろうとするけど、佐野の力は強くてびくともしない。それ以上のスカートの中への侵入は防げても、押し倒されてる今の状況が変えられない。 「ちょっと!ふざけないで」 「お前と四ノ宮がデキてるなんてなぁ」 「……っうる、さい」 「お前……あいつの前だとあんな風に甘えるんだな」 「うるさい、ってば……!どいて!」  力が緩んだ隙をついて、佐野の胸を思いきり突き飛ばす。 「……痛いな」 「どういうつもり?」 「どういうつもりもない。資料を探しに来ていたらお前らが来て、せっかくサカッたのにオアズケくらった気の毒な女がいたから慰めてやろうとしただけだ」 「……最っ低」 「でも本当だろ?……ほら」  佐野の手が頬に触れた。  すぐに振り払ったから一瞬だったけど、意外なほどに優しい指先が頬を撫でた。  佐野は笑う。男の顔をして。 「今だって火照ったままじゃないか」 「あんたがいたことに驚いて混乱しただけだから!」 「へえ……」 「わ、私もう行くから」  まとわりつくような佐野の視線から逃げるように立ち上がり、振り返らずに出口へと向かった。正しくは、向かおうとした。 「……っ!?」  その瞬間、後ろから首の襟元を掴まれひっぱられた。ネコの首根っこをつかむような、あんな感じに。  同時にチクリと刺すような痛みが走り、思わず顔を歪めて振り返る。 「何すんの!」 「襟が少し乱れてたのを直しただけだ」  佐野は涼しい顔をして、言葉通り振り返った私の襟を正そうとまた手を伸ばした。  私はそれを払う。 「さわんないで。自分でやるから」 「……まるで毛を逆立てた猫だな」 「あんたに服を直されるなんて嫌すぎ」 「四ノ宮ならいいんだろ?」 「……」 「ああ、四ノ宮になら脱がされたいのか」  無視して襟を直し、あらためて出口へ向かう。  いまだ残る身体の熱が周くんのせいなのか佐野のせいなのか、考えたくなかった。
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!