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第27話

 好き勝手に貪ってくる佐野の舌から逃げていてもすぐ捕まる。唇の端から唾液が流れていくのがわかった。熱い。どちらの唾液なのかわからない。苦しい。  周くんとは違う、大きくてゴツめの手のひらがガッシリと私の手首を掴んでいる。 「……ん、ぅ……!んん……!」  必死に唇を離そうとしているのに漏れてくるのは甘い声ばかりで、自分の耳をふさぎたい。  なんで。  周くんじゃないのに、なんでこんな声が聞こえてくるの。これは私じゃない。違う。  そう思いたいのに、頭の奥がしびれてきてしまっていることは膝の力が抜けると同時に思い知らされることになった。 「……っと」  床に膝をつきそうになったところで、腰を抱えられた。  さわんないでと言いたいのに声が出ない。どこの階でもいいから階数ボタンを押して出て行きたいのに、身体がうまく動かない。  クス、と笑う声がした。 「感じやすいんだな」 「……っ!ちが」 「違わないだろう」 「絶対、ちがう…!」 「ではただの欲求不満か?」 「なっ……」 「四ノ宮は忙しいからな。放っておかれて疼いているんだろう?」 「バ、バカにしないでよ」  ポーン、とエレベーターの到着音と共にドアが開く。  あわてて体勢を立て直そうとしたけど、未だ膝が笑っていてうまくいかない。誰もいなかったことに胸をなで下ろしてどうにか歩き出しかけ―――腰に巻きついたままの佐野の手を引き離す。 「離して」 「立てないんだろう。俺が連れて行こう」 「やめ……」 「気分が悪くなったということにすれば問題ない」 「ちょっ」 「産業医を呼ぶほどではないということにしておこう」 「待ってよ」 「少しは黙れ」  抵抗する暇もなく、佐野は軽々と私を持ち上げた。 「待っ!」 「暴れたら見えるぞ」 「う」 「わかればいい」  普段はパンツスタイルが多いなのに。  今日にかぎってスカートなんてはいてくるんじゃなかった。大人しくスカートを抑えながら、佐野に運ばれていく。  すれ違う社員たちが驚いたように振り向いてどうしたのかと訊ねるたび、佐野は「気分が悪いらしい」なんてそれっぽいことを答えた。強気で敵も多そうなのに仕事に向き合う姿勢はクソ真面目な人間だから、ウソをついてるなんて誰も思いもしないんだろう。 (エレベーターであんなキスしてくるような人間だってことも) (誰も思うはずない)  良い言い方をすれば用意周到。  悪い言い方をすれば、根回しまでも気をぬかない仕事のやり方。  無理矢理正面から突っ込むようなことはしない。それが佐野という男。  なのに、さっきのキスはあまりに強引だった。無理矢理相手の唇をこじあけて舌をねじこむような男だったなんてこと、知りたくなかった。 (佐野の顔……見れない)  唇を見たら思い出してしまいそうで。  周くんにだって会えない。  会えなくて寂しかったけど、佐野にキスされたなんて言えるわけないしでも隠せる自信もない。だって、周くんにはなんだって見透かされ――― 「あれ……どうしたんですか?」  ―――す、と、身体中の熱が引いた。
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