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第24話

「先輩。話はまだ終わってません」 「……だいたいわかったからいいよ」 「よくないです。……せめてこっち、向いてくれませんか」  そんなこと言われても絶対無理だ。  後ろから伸ばされた手は、エレベーターのボタンを押そうとしていた私の手を上から握ってそれを許してくれない。  ボタンからずらした位置で、手が重ねられて壁に押し付けられてる。  そのせいで背中にある周くんのあたたかさがわかるくらい密着していて、うしろを振り向くことなんて出来そうにない。 「……離してください、社長」 「やめてくださいよ急に」 「カッコ仮、でしたっけ」 「琴乃」 「……っ」  ずるい。  こんなときに名前で呼ぶなんて。しかもそんな窘めるような低い声。 「……琴乃。こっち、向いて」  ゆっくりと、耳元で言い聞かせるように周くんはくり返す。  本当にずるい。私がこういう風に言われるのが弱いってわかってるはずだから、ずるい。  その時、重ねられている自分の手が微かに震えていることに気が付いた。  周くんがぎゅ、っと握りなおして、そのまま一緒に下げたから。まるで、怖い事はなにもないよと言うように。 「……わかった。わかったから、手、離して」 「でも」 「繋いでるままじゃそっち向けない」 「逃げないって約束してくれるなら」 「……逃げないから」  周くんは少し迷ったように強く手を握ったあと、そっと手を離す。  私も約束は守る。だから、ゆっくりと振り向いた。  目が合った周くんは、片眉を下げてため息を吐く。 「ほら。やっぱそんな顔してた」 「……何、そんな顔って」 「今にも泣きそう」  言いながら私の頬に手を寄せて、目にキスをしてくる。  ちゅ、ちゅ、と小さな音を立てながらまぶたや目元にキスを重ねる周くんに、私は身体をよじらせた。 「泣きそうじゃないし、っていうか、周くん、待っ……早く戻らないと」 「んー……大丈夫……呼び出しかかってるのは皆さん知ってるし……別にこういうことしてるなんて誰も思わないよ。つか皆さんにとっての社長って父さんだよ?勘弁して」 「そういう、意味じゃ」 「だって琴乃さんが可愛すぎて」 「……っ!?」 「不安になってる顔なんて初めて見た。……予想してたよりずっと可愛い」 「何それ、どう……んっ」  突然親指で下唇をふにりとおさえられたと思ったら、周くんの唇が重ねられた。  予告なく浸入してきた熱い舌は遠慮なく口内を這い回り、私の舌をつかまえては尖らせてつつき、歯の裏までも舐め回す。 「んぅ……ぁ、はっ……んん……っ!」  息苦しいほどに貪り続けられて苦しい。一瞬でも唇が離れることの許されないようなキスは、唇が少しずらされた隙に息継ぎをしてもすぐにまた奪われる。  苦しい。こんなキス、今までしたことがない。  気持ちよさと息苦しさから頭の芯がぼうっとしてきて、必死で周くんのシャツを掴んだ。 「……何?こんなんでダメになるんだ」 「………っ、ぁ、ふ……っ」  ようやく解放された唇から絶え絶えの息が漏れていく。  目の前で周くんはぺろりと唇を舐めあげて、色っぽく―――意地悪そうに笑った。同時に腰を支えられていることに気付く。脚が震えていて力が入っていない。自覚した今も膝ががくがくしていて立っているのがやっとだ。 「ホンット可愛い。……だからいじめたくなるんだよね」  未だぼんやりとしたままの意識の中、そんな周くんの声が聞こえた気がした。
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