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第23話

「大朏さん、戻ってきてください」 「……え、っと」  情報を噛み砕いていくのにやっとで、私はなんとか声を返した。  周くんは初めて見る表情で、いつもよりずっと大人びた様子で続ける。 「僕は今の仕事が好きです。わがままが通るならば社長なんてやりたくはない。でも本家長男という立場があります」 「我々も正式にそこへ座らせる気もないがね」 「……とまぁ、こういう方も少なくないですしね。あとなにより、まだまだ社会人として人間として未熟だという自覚もあります。  だから、当分は兼任することにしました」  ……兼任?  つまり、営業と社長……社長(仮)の仕事をどちらも進めていくということ。 「それじゃ……あまりに忙しいんじゃ」 「かまいません。僕の問題ですし、何より有能ですから。それに、この方たちの希望を汲むことになるのは嫌ですからね」 「昔からいい根性してるよ、周は」 「お褒めにあずかり光栄ですね。……大朏さん。僕が社長を兼任することを、社員たちにまだ告げるつもりはありません」 「えっ」 「内情が不安定だと言ってるようなもんだからな。だが」  どかりとソファにもたれかかった聡彦は足を組んだ。  そして私の顔から足の先まで、あの夜みたいに舐めまわす視線で品定めをしながら続ける。 「カッコ仮だろうと我が社のトップには女がいるんだ。その女はつまりそれなりの価値がないといけない。カッコ仮だろうと」 「……どういう意味ですか」 「聡彦さん、黙っていただけますか」 「呼び出したのは俺だろ」 「それでも……今は黙ってください」  低く抑えた声をすごめた周くんに、聡彦はウッと口をつぐんで身体をひいた。  私も思わず息をのむ。  率直に、怖かった。怖いと思った。  温度をまるで感じない声色と目線。  さっきから初めての周くんばかり見てるけど、たった今の彼がいちばん怖い。こんなに年上の、それなりの立場もあるだろう男性に有無を言わせないなんて。  周くんは大きく開いた両膝の間で手を組み、私をまっすぐに見据えた。 「……僕に監視がついていることは伝えましたよね」 「あ……、う、うん」 「今後あなたにもなんらかの形で……内偵のようなものが入るかもしれません」 「え!!??」 「僕の預かり知らぬところで動きがあるようでね」  チラと横目で見られた聡彦はふいっと視線を逸らす。  自分たちがやってますと言ってるようなものだ。 「……不愉快な思いをさせるかもしれま」 「違うだろ」  視線を逸らしたままの聡彦が横やりをいれる。 「俺は別れろと言うために呼び出したんだ。周もわかってるだろ」 「僕は別れるつもりはないと申し上げたはずです」 「お前にはきいてない。そんなだからいつまでも我々に認められないんだ。女に入れあげている暇なんてお前にはないはずだ。少しは認められようとでもしたら、まだ可愛いげがあるものを」 「あなた方に認められるために、今回の件を受け入れたわけではありません」 「あの!!」  思わず叫んで立ち上がっていた。  周くんも聡彦も、目を見開いて私を見上げる。 「……家族喧嘩ならふたりでやってください。私は失礼します」  それだけ言って足を早め、この部屋から出ていくために急いだ。  すぐに誰かが立ち上がる気配がしたけど、追いつかれるのは嫌だ。入るには許可が必要だったドアは内側から簡単に開く。そして長毛種のフロアをひたすらエレベーターへ向かった。 「ーーー待ってください」  ……でも、エレベーター前であえなくゲームオーバーとなる。
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