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第22話

・・・・・  社長室のある6階に、滅多に足を踏み入れることはない。  というか、これまで1度もない。 「……なんで」  エレベーターを降りた瞬間から、ヒールから伝わる感触が私たちのいる階とは全然違った。ふかふかしてるというかふわふわというか、ラグというよりカーペットって感じ。  長毛種のネコとか似合いそうな、そんなところ。  率直にいえば、呼び出し。 「なんで」  社長室まで数メートルというところで足が止まった。  だって、普通に怖い。  よりによって、周くんが外回りでいない時に呼び出されるってどういうことだろう。  周くんから聞いた話が本当なら、いや、ウソってことはないだろうけど、現社長は病院にいるはずで。  じゃあ私を呼びだしたのは誰?ってことで。  周くんの不在時っていうのが、狙った感じがして怖い。  でも提示された時間まであと10分に迫りつつある。いちおう『社長』からの呼び出しに遅れるわけにはいかない。  ―――トントン 「営業3課の大朏です」 「どうぞ」  ……ん?あれ?  内心首をひねりながらドアを開けた私は、うっかり大きな声を出しそうになった。あわてて口に手を当てる。そのまま一礼し、中へ入った。  社長室の奥、窓からの陽射しを背にした大きな机に腰を掛けた男が立ち上がり、にっこりと笑う。 「そうかたくならないでください」 「……え」  ほかでもない周くんだった。  でも今は外回りに行ってるはず――― 「大朏琴乃。君をよびだしたのは私だ」  突如、社長室と扉を挟んでの続きになっている秘書室からもうひとり現れた。  恰幅の良い体格が窮屈そうにスーツに包まれ、靴も時計も良いものを付けた灰色の髪の中年男性。忘れもしない。あの夜バーで会った、周くんを指さして「認めない」と言い切った叔父の聡彦。  なにが起こっているのか全然わからない。 「え、っと……御用とは何でしょうか」  それでもここは社長室。  息を吐いて背筋を伸ばし、目の前に並んだふたりをまっすぐに見つめた。 「なるほど?たしかにたいした女だな」 「そういう言い方はセクハラになりますよ、聡彦叔父」 「フン」 「大朏さん、驚かせてすみません」 「……いえ」 「まずはそちらにかけてください」  テーブルを挟んで向かい合わせになったソファーに促されるまま、ひとまず腰を落ち着ける。  向かって右には周くん。  左には、聡彦が同じように座った。  少し落ち着かないように手を擦りあわせた周くんが切りだした。 「……父が実力行使に出まして」 「え?」 「社長の座を本格的に譲ると言ってきかなくなったんです」  なに、その子どものわがままみたいな…… 「社長はわがままだからな。誰も彼もあいつに甘い」 「聡彦さん。控えてください」 「だが俺をはじめ反対派もいるのも現実だ」 「わかってます。だからこんなことになってるんでしょう」  目の前で言い合うふたりを見てるだけでは時間の無駄な気がしてきた。 「つまりどういうことなんですか?そしてなぜ、私は呼び出されているんです?」 「つまりだ大朏琴乃」  身を大きくのりだした聡彦は、上品そうなたたずまいからにじみ出る下品さを隠そうともしないで続ける。 「社長自らの指名を無下にすることは不可。しかし周はまだ若造。社長になるには早い。そして俺たちもいる。つまり最大限の譲歩として、社長補助という名の監視付で社長(仮)という立場をコイツに与えたというわけだ」 「……え?あま……四ノ宮くんが社長?」 「カッコ仮だ。あくまでもカッコ仮」 「叔父さんはそこ譲らないんですね」 「当然だろう」 「僕の監視が男ふたりとか暑っくるしすぎるんですけど」  カッコ仮だろうと何だろうと、まだ正式じゃなかろうと、周くんがうちの会社の社長?  こんなに早く?  今の部署ではどうするの?みんなへの報告は……だって今は佐野を中心に重要な……
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