7 / 8

夜の魔法使いの愛人-2

 他の人ならともかく、ゼノに限っては、絶対にあり得ない。  そう笑おうとしたわたしに、洗濯物を抱えたヘレナが、ずぃ、と近寄って来た。 「噂、聞いたんだけど、本当?」 「ど……どんな噂でしょう?」 「実は、主さまが、修行時代散々師匠にいじめられて、あなたや実家ステーラ家に恨みでも持ってるんじゃないかって言う話」 「それは、ありません」  うん、それは断言できる。  ゼノは、生まれながらの魔法使いで、人の何倍もマナンを汲み上げ、魔力にする力もけた外れだ。  ともすると魔法を暴走させがちな体質を両親に疎まれ、早いうちからステーラに預けられていたようだし。  魔法って、全くないのも大変だけど、大きすぎるのを制御するのも難しいんだって。  公の場所で子どもは、マナンや魔力を完全に封印しないといけないって言うルールがある以上、何かと人には言えない苦労をしていたようだけれど。  ゼノは、ステーラ家で何時も楽しそうに笑っていた。  そりゃあ魔法の修行に来ているくらいだもん。  毎日食っちゃ寝の楽々生活ができるわけじゃない。  子どものころは、悪戯をすれば、怒られていたし。  成人の儀式が終わり、一人前になってから、父と魔法の解釈や使い方で意見が割れて、一晩中大声で諭争してたこともあったけど。  心配になって朝早く見に行ったら、ほとんど空の酒瓶をそれぞれ抱え。  徹夜明けの、独特なテンションで、二人仲良く世界で一番美味い物は何か、なんて話で盛り上がっていたぐらいだったからねぇ。  師匠である父に、何か不満があっても、その場でちゃんと話し合い、解決する方を選んで来たゼノが、積年の恨み辛みを暗く抱え込んでいるとは、思えなかった。  ゼノに、わだかまりは無いはずだって、わたしは即答したのに、ヘレナは全く信じなかった。 『ふう~~ん?』なんて冷たく鼻で笑うと、大きな声じゃ言えないけどさぁ、なんて、言葉を続けた。 「悪竜王を退治しに行った時。  主さまは師匠である、あなたの父上を見捨てて帰って来たんでしょう?」 「それは……大怪我して動けなくなったゼノが、父と一緒に残ろうとしてたのに。  魔王退治同行していた七人の勇者の一人、ウインクルム王国の近衛騎士さまが、無理やりゼノを抱えて帰ったって」  魔王退治までは、みんな無事で終わったはずなのに帰り道が、いけなかった。  そこら一帯を治めていた魔王、悪竜が死ぬことによって、竜に封印されていた、もっと凶悪な妖たちが、目覚めてしまったのかもしれない。  具体的な敵が、何かも判らないうちに、父やゼノ達のパーティを襲い、七人の勇者全員があっという間に切り裂かれてしまったのだ。  ゼノは、最初のペース配分を間違え、魔力とマナンを全部使い切った状態で、重傷を負い。  父も魔力に余力を残していたものの、癒し魔法は、自分自身には使えない。  例え王国に戻って癒し魔法を受けても間に合わず、とても助からない瀕死の重体だった。  ゼノを運んだ騎士も、自身も致命傷を負いながら、やはり一歩も動けない状態だった女剣士を抱え、あと一人しか選べない状況だった。  そんな、極限の世界でのぎりぎりの選択だったみたいだ。  父は、最後に残った癒し魔法を注いで、騎士の命をかろうじて繋ぐと、ゼノを連れて逃げろと叫んだらしい。  ……そして、ゼノは、生きて、ここにいる。
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!