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夜の魔法使いの朝-3
三年前『大惨事』が起きた。
ヨーロピアン大陸の中心にある、このウィンクルム王国と、周辺の国々の境近くで起こったことだった。
竜の化身の魔王が、直径十間(約七十メートル)ほどの巨大な火の玉をいくつも吐いて、一帯の森を焼き払ってしまったんだ。
これまでも、悪竜王と呼ばれた魔王は、ヨーロピアン大陸に巣くい、各地を荒らしまわってはいた。
雷雲を呼んでは大雨を降らせたり、思い通りにならないことがあるとすぐ、人家に落雷させたりしてたんだけれど。
ある日突然森を焼いたその日まで十五年くらいは、大人しくしていたと言うのに。
魔王は、一体、何が気にくわなかったんだろう?
たまたま、竜に焼かれた場所がステーラ家の領土の一部だったからね。
当時、国で一番の魔法使いだった父は、弟子のゼノと他の五人の勇者……騎士や、精霊召喚士なんかをひきつれて、魔王退治に出かけたんだ。
竜は、とても強かったけど、父たちも負けなかった、という。
七人の勇者たちは、悪竜王と戦って魔王城に追い詰め、倒すことができたんだ。
でもね。魔王は退治できたけれど、帰る途中で、魔王の残党たちに不意打ちを受けてしまったんだ。
結局。
生きて帰ってこれたのは、ゼノと王国近衛隊長の騎士、女性の剣士の三人だけ。
ウチの父を含めた後の四人は、文字通り帰らぬ人になって、その亡骸さえも家に戻ってはこなかった。
それでも、魔王と戦った勇者たちとウチの父は、伝説になった。
国々を……しかも祖国だけじゃなく、ヨーロピアン大陸を竜から救った大英雄と称えられたんだ。
そして、それから遺族年金を支給されたから、残った母と二人。
貧乏貴族のわたしたちも、何とか生活出来たのに。
今から二週間前のことだった。
父の年金を受け取っていた母が、ぽっくり亡くなってしまったのを境に、わたしの生活が大きく変わってしまったんだ。
大好きだった母が天に召されて、泣いていたわたしに、ウインクルム王国の財政課から届いたのは……父の遺族年金を終了するって言う通知だったんだ。
本来なら、父が命を賭けて、魔王を倒して稼いだお金だもの。
亡くなった母に代って、わたしが貰えるはずだったのに、そこにはとても難しい問題があったんだ。
このウインクルム王国では、親子関係の証を、先祖代々受け継がれた魔法で見極める習慣がある。
魔法って言うのは、今、人が生きて生活しているこの世界。いわゆる物質世界って言われるココには、無い。
別世界にある、マナンっていう魔力の元を汲み上げ、使う技術だ。
水をバケツで汲み上げるように、物質世界に来たマナンは、一旦、自分のカラダに蓄積される。
そして魔力として放出するときに、本人の才能によって地、水、火、風、雷、光、闇、時、命の九つの種類の魔力に変化できるんだ。
どの種類の魔法をどれだけの強さで、またはどのくらいの長さで使えるのかって言うところは、個人差がある。
一人一人がまるで指紋のように違っていて、同じ組み合わせの人は、居ない。
ただ、血のつながった家族では、ほぼ同じような組み合わせで受け継がれるんだ。
だから、わたしもウインクルム王国一番の魔法使い、トニトルス・ステーラの娘であるならば、父と同じく、雷と命の魔法が、人より飛びぬけて強いはずだった。
もし、父と同じ魔法が受け継がなかったとしても、母方の魔法。時間と、火が自由に使える魔法使いでなければならなかったのに。
どうやらわたしは魔力の元、マナンを汲みあげる力が無いらしく、どんなに簡単な魔法も、これっぽっちも使うことができなかった。
だから、わたしは父の娘であることも、母の娘であることも、何一つ証明できず。
かねてから、財政難だったウインクルム王国側は、功績を鑑みれば微々過ぎる遺族年金でさえ、打ち切ってしまったんだ。
しかも、そもそも精神世界から、魔力の元を汲み上げられないコトで、魔法が使えないわたし。
実は、とっても。
と~~っても、苦労しているんだよね、なんて。
はぁ、と思わずため息をついたわたし、ゼノに、声をかけられた。
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