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夜の魔法使いの朝-2

 部屋の真ん中にあるベッドから、南南東向きの壁ほぼ全体を使って作られている大きな窓へ寄り、この寝室を覆う、分厚いカーテンをぱっと開けた。  すると、途端に部屋には朝の陽の光が入り、白と金で作られた、清楚で豪華な寝室が際立つ。  同時に薄暗く、アヤシイ雰囲気だった空気が入れ替わった。  ここは、最高級住宅街の中でも一、二を争う立派なお屋敷、夜の魔法使い、ゼノの家の寝室だ。  高台に立ったお屋敷の、更に三階の窓から眺めれば、見える。  ヨーロピアン大陸で、十三ある国の中でも、最も栄えてる魔法王国ウインクルムの首都レガリアと、雲一つない真っ青な空が、いっぺんに。  地平まで続く、色とりどりの、瓦ぶきの民家の屋根と、石レンガで出来た神殿や時計台。  そして、飛行用プラットホームが、まるで、海と波間に見え隠れする小島みたいだ。  白い翼の小さなドラゴンが群れをなし、ぷーぷーと水蒸気を吐きながら、朝一番の飛行を楽しんでいる。  そのすぐ横では、空飛ぶ箒(ほうき)に乗った新聞配達人が家々の屋根の間を飛びまわり、もう、お仕事を始めてる。  うん、何の変哲もない、いつもの朝。  今日も平和で、いい天気だ。  わたしは窓の外の景色を眺めながら、大きく伸びをすると、時計台の時刻を確認して、寝室を振り返り、元気な声を出して笑う。 「おはようございます。  我がウインクルム王国が誇る七人の勇者の一人。夜の魔法使い、ゼノさま。  只今が、丁度昨夜『起きる』とご指定なさった時刻です。  朝からメイドをからかっちゃダメですよ。  今日は婚約者さまとお会いする日じゃないですか?  例え、冗談でも婚約者さまを裏切るようなことを言ってはいけません」  そんな、わたしの言葉を聞いて、ゼノは、窓から入った陽の光に眩しそうに目を細めた。 「婚約者と言ったって、俺が選んだわけじゃなく、認めたつもりもない。  しかも、俺はアリシアをメイドに仕立てた覚えもないんだが?  七つも年が離れているクセに、今まで散々ヒトの事を呼び捨てにしてくれたヤツが、今更。  急に敬語なんて使い出しやがって」  調子狂う、なんて。  まだ父がいたころ。  ウチで一緒に暮らしていたときと同じように、頬をぷう、と膨らませて見せたゼノが、なんだか可愛い~~  わたし、思わず笑っちゃった。 「あら、では、ゼノさまだって!  ウチに……ステーラ家に居た時は、わたしのことを『お嬢さん』とか言って、名前なんて絶対呼んでくれなかったのに。  こっちに来たとたん、いきなり呼び捨てにされて驚きました」 「う……と、そ、それはだな…………っ!  やはり、ステーラ家にた時とは、俺もお前もだいぶ立場が違うからな」  わあ。ゼノって普段、大抵の事にはびくとも動揺しないはずなのに!  彼がこんな風に顔を赤くしている様子なんて、初めて見た。  あんまり見ない顔って……ふふふっ。  なんだか面白いねって、思わず笑えば、ゼノは子どもみたいにぷん、と鼻を鳴らすと、わたしの手をぐいっと引っ張った。  って、わわわっ!  そんなに、急に引っ張ったら……っ!  わたし、とってもあっけなく。  ベッドの上に裸のまま座るゼノの膝の上にぽてっと、あおむけに転がって、そのまま、ゼノの顔を間近で見上げることになった。  わ~~綺麗だな。  なんて、思わず見とれていたら、ゼノの方でも、そっと顔を寄せて来たから。  薄紫色の長い髪がさらさらと、音を立ててわたしに触れる。  きっ、きやーー  ドッ……ドキドキする~~  ま…………まるで。  キスをする寸前まで近くなったゼノを見て、また熱が上がり、耳からぴゅーっと蒸気を吹きそうになった。  その様子を見て、ゼノがくすっと笑う。 「ほら、アリシアだって、顔紅い」 「えっ……! こっ、これは……!  もう! ゼノって、とっても綺麗なんだもん。  顔を寄せてきたら、誰だってドキドキするに決まってるでしょ!」 「へえ、俺って、そんなにイケメン?」 「無自覚ですかっ!?」  いいや、ゼノは、自分の魅力をちゃんと知ってて言っている。  あっはっは~~なんて、大笑いしながら、ベッドを降り、わたしの目の前でも、全然平気な様子で着替えを始めた。  このヒト、見かけによらず、実は結構、腹黒いんだから。  口の中でぶちぶちと呟きかけ、慌てて、わたし首を振った。   そんなこと、思っちゃいけないんだった。  なんせ、ゼノは、わたしの雇い主なんだから。  腹黒い、のではなく強(したた)かなんだよね。  うん。  こっちの方が、いい。  ゼノだって今、立場が違うって言ってたじゃない!  そう、いつものクセで、なんとなく。いつもと同じ様にさわいじゃっているけど、本当は違う。  小さいころから一緒にいた、わたしとゼノ。  ここでだいぶ、立場を変えてしまったんだ。
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