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夜の魔法使いの朝~目覚め -1~

  「おはよう~~アリシア~~  今日こそは、お前を抱いて、い~~か~~?」  えっえええ!  耳に心地いいヴァリトンの声に呼びとめられて、ベッドを見ればゼノがいた。  うっわわわ! 裸じゃない!  ふ……服を。  服着て、パジャマ!!  いくら、自分の部屋で寝てたからって、こうやって誰か入って来るんだからさ!  夜寝る時は、何かを着てて欲しいんだけど!  わたしの願いもよそにゼノは、どっかの芸術家が作ったような見事なカラダを、最高級の布で作った寝具に包んだだけで、ひらひらと手を振っている。  本気でわたしをベッドに誘っているのかな?  いやいや。  わたしを抱きたい、なんて、ゼノ、ぜ~~ったい寝ぼけてる。  薄暗い寝室に裸の男と二人きりでそんなこと言われれば、本当は、すごく大変なコト。  だけど、わたし全く怖くない。  だって、ゼノは、三年前に亡くなったわたしの父。  その時は、ウインクルム王国一番の魔法使いって言われていた、トニトルス・ステーラのお弟子さんだったんだ。  わたしがもの心ついた時から、ゼノはステーラ家に魔法の修行で住み込んでいたからね。  七つ年の離れた彼は、大好きな幼なじみって言うか、大切な血のつながらない兄ってとこだもん。   「じゃ、抱いて?」って誘われるまま、べッドにもぐりこんだとしても、ね? 「良く来たな、じゃ、ぎゅ~~」って普通に抱きしめられるだけに決まってる。  ゼノの方だって、わたしのことを幼なじみの妹だと思っているんじゃない?  本気になんて、なれないよね?  ……でも。  誰が見ても、ゼノはイケメンだ。 「抱いて良い?」なんて刺激的なセリフに、ドキッと高鳴っちゃったわたしの心臓の音。  ゼノにも聞こえそうなほど、大きかったかもしれない。   うん。  ゼノってば、眠そうな顔をしていても、しみじみカッコイイ。  切れ長の目に、群青色に輝く瞳。  高く通った鼻筋に、花弁の様な唇……二十代半ばの男のクセに、国一番の美女も裸足で逃げ出す迫力美人さんだ。  彼の見どころは、いっぱいあるけれど、一番特徴的なのはその、薄紫色の長い髪かもしれない。  ゼノが歩くと、この髪が綺麗になびく。  その様子が、まるで、夜、月明かりの中に吹く風のようだって言われ続け……  やがてゼノに『夜の魔法使い』っていう二つ名がついたぐらいだ。  そんな豊かな長い髪は今、全裸で寝そべるゼノの肌のあちこちに、さらさらと流れ、こぼれて落ちていた。  しなやかな首と鎖骨。細身でありなら、必要な筋肉がきちんとついて引き締まっている、腕やお腹の周り。  しみじみ見てはいけないのに、やっぱり気になってしまう場所……長々しい足の付け根や腰回り辺りは、絶妙にかかった上掛けで見えなかったけれど。  今、ゆっくり半身を起し、長い髪を鬱陶しそうにかきあげた姿が、なんとも言えず、どきどきする。  きゃ~~   いや~~  ウソ~~  じっと見つめていちゃダメだ。  耳からぷしゅ~~っと蒸気を吹きそう。  これがきっとオトナの男の色気って言うのかな?  くらくらする。  気を抜くと、何時までもゼノを見つめてしまいそうな視線を何とか外し、わたしは、ようやくココに何しに来たのか思い出した。
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