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夜の魔法使いの愛人-3

 父には、帰ってきて欲しかった。  けれども、ゼノにも死んで欲しくなんて無かった。  どちらかしか帰れない状況で、大好きな人たちの命を選ぶことなんて出来ない。  怪我を負ったゼノがステーラ家に一人で帰りついた夜。  それまで、父の死にざまを淡々と話していたはずのゼノが、寝室にさがった真夜中。  自分の無力さと、後悔の言葉を呟いて声を押し殺して泣くゼノの声を聞いて、ただ、ただ、わたしは、彼の無事を喜ぶことに決めたんだ。  わたしは、腕に抱えた洗濯物の中でぎゅっと拳骨を握ったけれど、ヘレナは全く気付かないみたいだ。  無神経な無遠慮さで言葉を積み上げた。 「魔法使いの弟子なら、息子も同然。  他に男子がいなければ、家を継ぐことだって出来るはずなのに。  ステーラ家に恨みがないのなら。  女ばかりになった家中を心配して、ステーラ家に留まってもいいはずなのにねぇ。  お葬式が終わったその日の内に、家を出たって言うじゃない」 「それは、きっと、ゼノ……さまにも思うところがあって…………」 「そう?  でも、結局あなたは、ステーラ家の後次ぎだって証明できなかったでしょう?  財産も、勇者の娘って言う称号も、何もかもを奪われて、こんなとこで、メイドのまねごとをしてるじゃないの」 「ゼノは、わたしをメイドに仕立てた覚えは無いって……!  ステーラの治めていた領土は、王国に帰さなくてはいけなかったけど。  首都レガリアでの屋敷や調度品の丸ごとと、庭はゼノが買い取ってくれたから、気が向いたら、元の家に帰っても良いって……」  そう、ゼノは家を出て以来、ステーラには帰ってこなかったけれども、色々気を使ってくれたんだ。  ゼノが家を買い取ってくれたから、ステーラ家の屋敷が解体することもなく、一族の歴史や歴史が他の人に踏みにじられることもなかったのに。  なのに。  何も知らないヘレナが笑う。 「メイドに仕立てた覚えは無い?  では、アリシア。  あなたの立場は『愛人』かしら?」 「なっ…………」  なんですって!?
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