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夜の魔法使いの朝 -5

 実は、生まれつきマナンが汲みあげられる人は、全体の二割ぐらいしかいない。  残りの大半は、十八才の成人の儀までに、自然と出来るようになってゆくものだった。  子どもは、マナンを溜めるのも、魔力として出すのも、凄く下手で不安定だ。  眠っている間に、マナンを無意識に汲んで魔法に変えて、放出し。  朝起きて自分の寝ていた寝室が、未熟な風魔法だか、炎の魔法で本人の知らないうちにぐちゃぐちゃになっていて驚いた……なんてこともそう珍しい話じゃない。  そんな具合だったから、子どもは、大人になるまで魔力を封印しなくちゃいけないことになっていた。。  そして、その封印を解除する成人の儀式までに、魔法学校に行って、マナンや精神世界、魔力の事について勉強して待っているのが普通だ。  だから。  本当に魔力が使えないのか、それとも封印されているのか誰にも判らず、なんとかごまかすことができたのに。  学校を卒業してしまったら、もうダメだ。  親に封印されていた、魔法の封印を成人の儀式で解かれ、それぞれの路を歩む。  普通に職業をもって、仕事を始めたり、更に上の魔法学校に行って魔法の力を磨くとか、無限の未来があるっていうのに。  わたしみたいに、魔法が出来ない人々は転落人生が待っている。  そりゃあ、皆が普通にできる、便利な魔法道具だって使えないんだもの。  一人前だと認めてくれないばかりじゃなく、もしかしたら人間扱いをしてくれないかもしれない。  まだ、引き取ってくれる家族がいれば、良かったんだけどね。  父は、母と恋い仲になって、その身一つでステーラ家に転がりこんで来たみたいなもんだったし。  ステーラ家は、本来男系男子が継ぐはずの跡取りが誰も居なくて母が当主になったぐらいだもん。  大人になっても、魔法が使えない上。  わたしみたいに、両親が亡くなり、親しい親戚もない天涯孤独の身の上じゃ『保護』って言う名のもとに、特別な集団生活をすることになる。  そして、個人的な財産を持つこともできず。将来魔法が使えない人間が増えないように、って結婚もできず。一生を過ごさなくちゃいけないはずだった。  母が亡くなって、特に生活する手段も無く、施設に入る手続きをする寸前。  三年前に独立し、ここに住んでいたゼノに、ウチに来て働かないか? って誘われたんだ。 「あ~~あ。  魔法学校は、首席で卒業したんだけどなぁ」  なんて。  言っても仕方がない想いが、言葉になる。  せめて、トーストぐらいは作りたい。  そうトースターにパンをセットして、ボタンを押してもびくともしない。  ゼノは、ただ『熱』って一言だけで、ぽんっと香ばしいパンが焼けたっていうのに。  こんな調子で、案の定。わたし、な~~んにも、役に立たない。 「これで何かゼノのために出来るのかな?」  メイドのつもりでココに来たけれど。ゼノは、わたしをそんなのに仕立てたつもりは無いって言う。  そりゃあ、そうだろう。  魔法が一切使えないのなら、簡単な掃除にだって、無駄に時間がかかって仕事になりはしない。  考えるだにず~~んと落ち込んじゃうけど仕方ない。  せめて、ゼノの作った料理を美味しく食べるお手伝いをしようっと。  ありがたいことに、ここのキッチンの水道。  何もしなくても綺麗な水が、流しっぱなしになっている永久循環タイプみたいだ。  乾いた台布巾を取って、流れる水に浸し、ぎゅっと絞ってテーブルを拭いていたら、フライパンを持って柔らかく笑うゼノと目があった。 「その白い手を、水仕事に使わせて悪いな。  多分自分が思っているより、アリシアは役に立っているぜ?」 「え?」  わたし、ゼノの思いがけないセリフに驚いた。 「魔法が使えないことは、大変だと思う。  だけど、少なくとも俺の家みたいな、特殊なマナンと魔法が満ち溢れすぎている場所では違うんだ。  下手に魔法を使うと暴発したり。  自分は何もしていないはずなのに、マナンがどんどん汲み上がりすぎて、出せなくなることもある。  だから、より、マナンの多い場所の整理整頓には、アリシアみたいな体質のヤツが打ってつけなんだ」 「う~~ん、それ、本当?」 「本当、本当。なにしろ、さ。  アリシアが来る前までは、使用人に順番に封印して仕事をさせたけど、大人になってからの魔力封印は、やっぱり辛そうだったからな。  しかも、本当にマナンが濃い場所は、よっぽど魔法知識が無い限り、恐ろしくて一歩も入れることなんてできなかったし」  その点、お前は学校を首席で卒業できるほど、魔法について詳しい上。  魔法が使えないっていう理想的な特徴がある、とゼノは言う。  本当かな?  本当だったら、いいな。  こんなわたしでも、何かの役に立つことは、心からの願いだったから、ゼノに言われるまま、その言葉を信じることにしたんだ。  わたしの担当する持ち場は、三つ。  魔法使いには危険な場所とゼノのプライベートで使っている所。  寝室、このキッチン。  そして、魔法具倉庫、兼、図書室の掃除と整理整頓をしてもらえると助かるって、改めて頼まれたけど、ねぇ。  ゼノって、とても働き者だ。  ウチでの修行時代のそのままに、自分の事は何でも自分でしていたし、掃除だってわたしより上手い。  でっかい私設図書館も、ずらっと一杯並んだ魔法道具置き場も、きちんと整理整頓されているところを見ると。  わたし、ゼノのお布団干しと、洗濯係さんへ使ったと洗濯済みの服を受け渡すぐらいしか、お仕事無いんじゃ…………?  ぐるぐる考えるわたしをよそに、ゼノは、自分で作った美味しそうな朝ごはんを二つ分、綺麗にお皿によそって笑ったんだ。 「さあ、アリシア、一緒に朝飯にしようぜ」  なんて、とってもご機嫌な顔で。
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