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夜の魔法使いの朝-4

「アリシア。朝飯まだなら、俺と一緒に食って行け」 「えっ! あっ、うん。  …………じゃなかった、はい」  突然響いた声に、反射的に答えた視線の先には、きちんと身なりを整えたゼノがいた。  思いのほか、長くぼ~~っとしていたみたいだ。  黒の長ズボンをはき、邪魔な長袖をまくりあげた白のシャツを着たゼノが、白地に青い斜め縞々ストライプの入ったエブロンをつけて、お玉を持っている。  ……って、お玉!  「も、もしかして。  ゼ……ゼノさまってば、今でも食事は自分で作っているんですか!?」  ゼノが魔法使いの弟子として、ステーラ家にいた時はもともかく、いまや、亡き父に代わり『国一番の魔法使い』を名乗っているんだ。  魔王退治で貰った本当の財産は、けちな国家の微々たる報奨金じゃなく『偉大な魔法使い』という肩書きだと言って良い。  それを上手く使って、ゼノは、魔法学校の講師を高額で引き受けたり、その他、ウインクルム王国のいろんな人から相談事を頼まれていた。  商売の下手だった父と違って、とってもお金持ちだ。  三年前の大参事以降、ステーラ家を出て、こんな立派なお屋敷に住み。  メイドも執事も料理番も居るのに、まさか、今でも自分で朝食を作っているとは、思わなかったんだ。  驚いていると。ゼノは手に持ったお玉をくるくると器用にまわして、片目を瞑った。 「そりゃ、ステーラに居たころは、料理ができねぇアリシアの代わりに、俺がしょっちゅう飯を作っていたからな。  すでに料理は習慣だし。  本当に美味いモノは、自分で作らなくちゃなんねぇ事は、良く知ってる」  にこっと、楽しそうに。  でも、ちょっと意地悪っぽく笑うゼノが何だか憎い。  ぶーー  ぶーー 「そんな事言ったって!  わたし、料理なんて、作りたくても、作れなかったんだもん!」  って、思わずいつも通りに返事をして、この言葉づかいはまずいんじゃないか、と息をのむ。  それに、使用人ってご主人さまに朝食を作らせた挙句、一緒に食べちゃって、良いんだっけ?  ステーラ家では、いつも父がテーブルの上座についてはいたものの。来客や行事が無い限り、住み込みでお手伝いしてくれてる皆と同じモノを同じテーブルについて食べていた。  それは、父がステーラ家にお婿に来るまでは、そういう食べ方に慣れてなかった、って言う事だったけれど。  でも、本当は上流階級、って言われるヒトビトは違うらしい。  主人の、食事をしている間中、給仕が控えていて、面倒を見てくれる。  どこで生まれたのか、父も本人も教えてくれない謎のゼノだって、今は、ちゃんとウインクルム王国の貴族の一員だ。  使用人と同じテーブルについていいのかな?  わたし、思わず心の中で後さづりをしてしまったけれども、ゼノは全く気にした様子もなく、寝室の隣の部屋においでおいでって誘ってくれた。  ……って、ええと。  しかも、ココ。  誘ってくれたこの部屋って、お屋敷の厨房でも食堂でも、もちろん無く。  ゼノが普段、誰も人を入れない開かずの部屋じゃ……?  噂では、新しい魔法の研究部屋だとか、妖しい奇怪な生物を飼育しているとか……拷問部屋があるとか。  とんでもない噂が飛び交っていたけれど、ゼノに続いて、おそるおそる入ってみれば、何のことは無い。  一般庶民が集合住宅で使っているような、対面型のキッチンのある、食堂だ。  家庭の台所と違うのは、調味料だか、魔法のハーブだか判らない小瓶が、いろいろ種類に分かれてずらっと並んだ保管棚と、その奥には、ちょっと大きすぎる冷凍冷蔵保管庫があるくらいだ。  あとは、普通。  四、五人も座ったら一杯になっちゃうテーブルの片端がカウンターになっていて、その先には水道とシンクの水回りとコンロがある。  ゼノは、そのコンロの前に立つと『火』と短く声を出した。  途端に。  コンロには、蒼い炎が上がり、ゼノは、フライパンを温めながらつぶやいた。 「そうだな……アリシアが料理出来ないのは、アリシアのせいじゃない」  そう。  この世界にある、便利なものって大抵、自分のカラダに蓄積したマナンを使って動くんだ。  例えば、このキッチンにあるコンロ。  コレは火の魔法を使うことが苦手な人でも、自分のマナンをちょっと込めれば、ちゃんと調理で煮炊きがしやすい炎を生むことができる。  そして、本来なら一流の風の魔法使いしかできないはずの空中飛行だって、そう。  専用の箒(ほうき)に乗れば、誰でも簡単にできることは窓から見えた新聞配達人のとおりだ。  こんな感じだったから、魔法も、便利グッズも使えないわたしは、まともな仕事に就けないし、一人では人並みに生活しようすることさえ、難しい。  それでもまだ、義務教育期間……子どものころならよかった。
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