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第1話 ある夏の日のアリ君視点

「リズぅ~、こっち来いよ」 聞きたくもない甘ったるい声が聞こえて、 俺は絶対そっちを振り向かない、と心に誓う。 「……アリくん?」 だーかーらぁ。 男といるんだろ? こういう時には声掛けんなよ。 そういう顔をして、じろりと見返すと、 「ほら、アリの奴なんて 構っても仕方ねーだろ。 今日も真面目にスーツ着て、 これから、お仕事、だってよ。 ってことで、 不真面目な俺達は楽しく遊ぼうぜ」 これ見よがしに、俺の方に 視線を向けるチャラい男に、 リズは肩を抱かれている。 「……だって」 何か言いたそうなその唇は、 チェリーピンクの艶々だ。 しかも、拗ねたように その唇の先は微かに尖っている。 俺じゃなくたって、 男なら、絶対その唇を欲しくなる。 ……どうせその目の前の男だって、 ソレ目的に決まってんじゃんか。 そんな事にも気付かない、 お前が馬鹿なんだよ。 (──このビッチ女がっ) チャラチャラした二人を、 ブリッジを指先で持ち上げて、 黒縁眼鏡越しに睨み付けると、 男は肩を竦めて、さらにリズを引き寄せ、 桜色の耳朶にキスでもしそうな勢いで 唇を寄せる。 きっと俺に見せつけてるつもりなんだろう。 ムッとはするが、あえて表情には出さない。 「行くぜ。俺達は楽しいパーティ、だからな。 そんな陰気な男に構うことないって」 そう言うと、男はリズのくびれた腰を抱く。 リズのウエストはほっそりしているくせに、 胸も尻にもたっぷりボリュームがあって。 きっと抱き心地は良いに違いない。 小柄でグラマラスで、緑の瞳をしてて、 キラキラする金色の長い巻き毛の髪が そのゴージャスな体を彩る。 (……昔はそんなエロい体してなかったよな) 何処ともつかない方向に向かって 俺は心の中で悪態をつく。 ホットパンツから伸びる脚線は、 豊かな臀部から太腿に掛けて、 むっちりと肉がついている。 そのくせ、膝から下はすんなりと 細くて長くて。 それになんだ、それ。 もうちょっと大きい奴を着たらいいだろう? なんだその、ぴっちぴちのTシャツ。 動くたびにリズの大きな胸が、 たゆんたゆん 揺れるのが、たまらな……。 (──いや、仕事行こう……) オチツケ、俺。 ずれかけた眼鏡をもう一度直し、 リズの姿を完全に無視して、 仕事用のカバンを持つ。 今は夏だ。 馬鹿な奴らは浮かれて遊びまわっている。 だけどわかってんのか? 冬になれば、ここら辺は雪が積もり、 数か月、外にすら碌に出られない状態になる。 きっとおバカなリズは何の準備すらせずに 酷寒の冬を迎えるんだ。 だから俺はビッチでおバカなリズに アドバイスなんてしてやらない。 ……その時になったら困ればいい。 *************** 「ねえ。アリくん。 どうして、アリくんは一生懸命働くの?」 昼時、わざわざ俺が 仕事をしているところまでやってきて、 公園のベンチで昼食を取る俺の横に座って リズは話し掛けてくる。 ……そういう態度が男に誤解させるってーの。 安易にそういう事するから、 直ぐ男に誘われるんだって……。 「ああ。まあ……冬に備えて蓄えを 作っておかないといけないから……」 下を向いて、 まだ青々としている雑草を見つめながら、 ぽつりと俺は呟く。 「……たくわえ? ふーん、そうなんだ。 アリくんは真面目なんだね」 ……ああ。みんなそう言うな。 『アリは真面目で堅物で面白くない奴』 そんな皮肉な気持ちで、 地面から視線を上げつつ、 横に座ったリズをチラリと確認すると、 ついうっかり、白くて柔らかそうな 胸の谷間に目が行ってしまって。 (ああもう。なんでそんなに 胸の開きのデカい服着てんだよっ 他の男だって絶対見るじゃんか!) 慌てて視線を逸らす。 ふわふわで、艶やかで。 マシュマロみたいに柔らかそうな胸。 つい触り……。 ──そうじゃなくて。 そういう恰好してたら、他の男が喜ぶだろう? ……いや、俺だって、そんなおっぱいみたら、 思いっきり、揉みしだきた……。 「いや、そうじゃないっ」 思わず声を上げてしまって、 リズが不思議そうにこっちを見上げる。 しまった。 何の話をしてたっけ? 「……え。そうかな? 私、アリくんって真面目だなって思うけど。 偉いな、素敵だなって思うよ……」 両手を合わせて キラキラした目でこっちを見て。 (だーかーらぁ。 そういうの、男は誤解するんだよ) ──ちょっとぐらい、俺に興味ある? ……な、わけないよな。 リズはおバカで天然で。 エロくて、最上級に可愛くて。 ……男を簡単にメロメロにする。 多分、無自覚で男を誘惑しまくってるんだ。 (くそぅ……エロビッチの癖に……) 思わず伸ばし掛けた手は、 彼女に触れる手前で止まってしまう。 だって……。 「リズ~~~~、何してんの? ……え、ヤダ、なんでアリくんと一緒なの?」 リズを見かけて走り寄ってきた女が、 俺の顔を見た瞬間、露骨にイヤそうな顔をする。 「俺、仕事戻るから」 冷めた声でベンチから腰を上げる。 「ねえリズ、こんなのに構ってないで 遊びに行こうよ~」 リズの友達の言葉を聞いて、 俺はもう二人には声を掛けず、 そのまま立ち上がり、 休憩をしていた公園から出ていく。 どうせリズはまた遊びに行くのだろう。 冬の備えなんてしないで。 ……いや冬の備えなんてしなくていい。 その方が……俺にとっては 都合がいいんだから……。
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