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〈第一章・17〉

「それから?」  僕は、姫桜の物語に我を忘れて聞き入っていた。 「ここから先は、お代が()りんす」    と、姫桜。  しなを作って、花魁の真似をしている。  婀娜(あだ)っぽい彼女には、そんな仕草もよく似合う。  ドレスから色とりどりの豪奢(ごうしゃ)な着物に着替えて、長い銀髪を結い上げたら、ガラリと印象が変わって――さぞかし美しいだろう。 「うー、今、金なんか持ってないですよ」  僕が黒衣のポケットをひっくり返していると、彼女はくすくすと笑い、僕の頭を撫でた。 「そろそろ眠りたく思います」 「あ、はい、ただいま」  急いで長椅子から立ち上がり、布団を探そうとして、優しく止められる。 「うふふ。自分のことは、自分でやれます。楽しかったわ」 「こちらこそ」 「またお喋りしましょうね」 「はい。有難うございました」 「おやすみなさい、千秋さん」  あくび混じりの声に「いえ」と首を横にした。  本当に眠そうだ。くたくただと言っていた。早く立ち去るとしよう。 (……っと、その前に) 「千秋でかまいません。おやすみなさい、姫桜さま」  返事は聞こえない。着替えているのか、寝具を整えているのか……。  僕は極力音を立てぬよう、そっとドアを閉めた。 「……っと」  姫桜の部屋から廊下に出て、しばらくぼうっと歩いていたら、角から現れた黒い着流し――蓮とぶつかりそうになった。
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