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〈第一章・15〉
うふふ、貧乏自慢に不幸くらべはみっともないですね、もう止します。
――労働、基準……?
そのような難しい言葉は存じません。
当時は子供も、朝起きたらすぐにお仕事です。
学校なんて上等なものには行っておりませんからねぇ。
一日中、なんやかんやとやることはあったのですよ。
まあ、お仕事っていったって、あんまり褒められたようなお仕事じゃございません。
置き引きにスリ、ぽやんとしたおかみさんやら、身なりのいい旦那さんがたには悪いことをしてしまったかしらん。
カモ――いいえ、お優しそうな紳士淑女の皆さまがいらっしゃらない日は、足の不自由な〈おとん〉にくっついて回って、お恵みをォ、お恵みをォと言って、僅かばかりの小銭を恵んでいただくのが私のお仕事。
そんな毎日に、いつからか、あのひとが。
千秋さんよりも、もっと、ずっと年のいったひとです。
大変なお金持ちでございました。
あらあら、その頃の私なんて、まだまだ小さな子供でしたのよ。
悪さなんて出来やしなくてよ。
ふふ、いやあだ。何を考えているのかしらん。
売り飛ばすにしてもねえ。
地位もある、お金だって腐るほどお持ちの男爵さまが、そんなはした金を欲しがるかしらん。
本来なら、私なんか身分が違いすぎて、口をきくことだって許されないのですよ。
いいえ。
あったのです――身分という絶対の壁は。
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