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〈第一章・14〉

 好きに話しましょうか。  あまり昔のことはもう覚えていません。  だって、あんまり遠くて……。  大きな戦争がありました。  さあ、何の戦争なのか――までは。    海の向こうの外人さんが、たくさんたくさん亡くなったそうです。  いたましいこと。    やれ、大戦景気だ。  やれ、成金だ。  世間さまは色々と騒がしかったけれど、私には何の関係もございません。  ――私は物乞い。  ええ、乞食の子供でした。    あれはいつだったか――。 「おめえはもうちっとたったら上玉になる、そうしたら売られて花街にいくんだ」  と。  女衒(ぜげん)――人買いの兄さんに連れられて、遠くへ遠くへ行くんだと、たまぁに粥をくれる、同じ身の上のじっちゃんが小さい私へ言いました。    ――あわれでしょうか?  そうでしょうねぇ、私も今はそう思います。    けれど。  毎日「綺麗だ、別嬪さんだ」とチヤホヤされて、ご飯だって毎日食べられのでしょう。    それの何が苦しいか。  身を売るつらさなんて、ものを食べられぬつらさに比べたら、かすり傷にもなりません。  汚れるのは慣れておりました。身も心も。  早く売り飛ばされたかった。  話にきく花街の、綺麗なおねえさんにお仕えしたいと願っておりました。
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