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〈第一章・9〉

 ぽつんとひとり取り残されてしまった。  部屋のすみに放りっぱなしのショルダーバッグを何となく漁ってみる。  手帳に、財布、携帯電話。  小さなミュージックプレイヤーは電池が切れている。  飲みかけのスポーツドリンクは、とっとと捨てるべきかもしれない。 (本当に何もないな)  携帯電話の電源を入れてみた。  この前見たときと、一秒も変わらない時刻表示。  アンテナは当たり前のように圏外だ。  電話が通じないのはもう諦めたけれど、せめて友達や両親――誰でもいい、メールの一通でも送れたら、どんなにいいだろう。  財布の中身は、ゲーセンで遊んで食事を済ませて、それからどうしたっけ。  どうせ、たいした金額なんか入っていないけれど。  特にすることもなく床に座りこんでいると、またドアが開かれた。 「やあやあ、新入り君」 「あ……ど、どうも」  鶴のように痩せて細く長い身体、枯れ木を思わせる風貌。  彼が、この洋館に存在する唯一の老人(、、)だ。 「えぇと……。〈医師〉さん」 「医師さん、医師さんだよ。いかにも医師だ。君はどうしてそんなに青白い顔をしているのかい? 具合が悪いのなら診てあげるよ、治してあげるよ」 「え? いえ、その、大丈夫です」 「大丈夫です。ホホッホ。さてさて、どうかい、君はもうここの暮らしには慣れたのかい、慣れたのかい?」  医師は、にこにこと笑いながら痩せた手を伸ばす。
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