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〈第一章・8〉
僕が答えるのと同時に、痩身の男――細雪が細くドアを開け、告げる。
「牡丹さま、お客さまがいらっしゃいました。すぐにご用意を」
「えぇー。やだあ、今はいや」
「なりません、牡丹さま」
細雪は、素早く部屋に入りこみ、イヤイヤと僕にすがりついている娘の顔をクイと上向けた。
「んッ」
彼は懐から朱い丸薬を出し、牡丹の口へ押しこみ、それを飲みこませた。
「……ふ、ああ」
一拍。
くたりと、牡丹の身体から力が抜ける。
「な……?」
戸惑う僕に、一瞬だけ忌まわしげな眼差しをよこし、細雪は放心した牡丹をそっと抱き上げた。
「牡丹さま、よろしいですか」
軽く揺さ振る。
(――慣れている)
「牡丹さま、お客さまです。お部屋に帰りましょう」
あんなに陽気でわがままな娘の頬から、すっかり血の色が抜け落ちる、
キラキラと輝いていた瞳は、ぼんやりと宙をさまよい――人形になった。
「…………」
牡丹は僕を振り返りもせず、小さく頷いて誰の手も借りずに立ち上がった。
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