12 / 125

〈第一章・8〉

 僕が答えるのと同時に、痩身の男――細雪が細くドアを開け、告げる。 「牡丹さま、お客さまがいらっしゃいました。すぐにご用意を」 「えぇー。やだあ、今はいや」 「なりません、牡丹さま」  細雪は、素早く部屋に入りこみ、イヤイヤと僕にすがりついている娘の顔をクイと上向けた。 「んッ」   彼は懐から朱い丸薬を出し、牡丹の口へ押しこみ、それを飲みこませた。 「……ふ、ああ」  一拍。  くたりと、牡丹の身体から力が抜ける。 「な……?」  戸惑う僕に、一瞬だけ忌まわしげな眼差しをよこし、細雪は放心した牡丹をそっと抱き上げた。 「牡丹さま、よろしいですか」  軽く揺さ振る。 (――慣れている) 「牡丹さま、お客さまです。お部屋に帰りましょう」  あんなに陽気でわがままな娘の頬から、すっかり血の色が抜け落ちる、  キラキラと輝いていた瞳は、ぼんやりと宙をさまよい――人形になった。 「…………」  牡丹は僕を振り返りもせず、小さく頷いて誰の手も借りずに立ち上がった。
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!