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〈第一章・7〉
「妾は疲れた。寝る」
胡蝶蘭がドアを開けたと同時に、バタバタと派手な足音をたてて、紅色のドレスを着た娘が僕の部屋に転がり込んできた。
「千秋! 勝手にいなくなるなんてひどいわ! きゃっ、胡蝶蘭さま! お邪魔しました!」
牡丹は勢い余って、ドアノブを持ったままの胡蝶蘭に体当たりをしそうになる。
自分では止められないのだろう。
「危ない!」
慌てて間に入ろうとした。
しかし胡蝶蘭は、牡丹の突進を難なくかわす。
ほっと胸を撫でおろす僕を横目でちらりと見て、胡蝶蘭は青い髪を揺らし、さっさと歩いていった。
「ああ、びっくりしたぁ」
「大丈夫ですか? 牡丹さま」
僕は、赤くなったり青くなったり忙しい娘の肩に、軽く手を置いた。
「お怪我はございませんか?」
「え、ええ。あの、ごめんなさいね、あたし、寝てて……。黒子さんがいなくなってたから、寂しくなっちゃって」
「申し訳ございませんでした。……牡丹さま、まだ足りませんか?」
さっきの胡蝶蘭と同じ台詞を、牡丹の耳に意地悪く囁く。
牡丹は、かあっと頬を赤らめながら、僕の指先を握りしめた。
「もう。二人っきりになったら、それやめてって言ったじゃない」
「あはは。ごめん、牡丹」
「嫌よ、許さない」と言いながら牡丹は爪先を立てて、僕の頬に軽くくちづける。
「んー」
「うん? なんだよ、牡丹」
「甘い香りがする。そっかあ、蜜をもらっていたのね」
「当たり」
「あたしだって花姫だから、千秋に蜜をあげられるのよ? 別に胡蝶蘭さまじゃなくったって、お腹をこわしたりしないわよ」
「もうお腹いっぱいだよ」
苦笑していると、ドアがこつんと叩かれた。
「はい? 開いていますよ」
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