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〈第一章・3〉
牡丹が眠るのを見届けて。
ベッドから身を起こし、乱れた黒衣を直した。
〈ここは、娼館さ……〉
紛れこんだ日に通された、楼主 を名乗る途方もない美丈夫の、けだるい声を思い出す。
秘密が守れて、たんと金を持った特別なお客さんが愉しんでいく場所なのさ。
きれえなむすめばっかりだって?
まァな、集めたからなァ。
客の資格?
ここの経済の仕組みだァ?
はは。
つまんねェことが気になる性質 だなァ。
そっくりだよ、あいつに。いや、なんでもねェ。
そんなことを、いちいちお前さんに教えてやる道理は、あるのかい?
まあなァ。
お前さんが、どうしてこんなところに来ちまったか知らねェが。
客以外でここに入ってきちまったら……もう、出られねェ。
ま、ま、落ち着け。
そうだなァ……。
ひとつだけ、方法があるっちゃ、あるけどな。
無理だろな。さっさと諦めな。
お前さんは、胡蝶のモンになったんだろう?
胡蝶が欲しがるンなら、死なすワケにもいかねェしなァ――。
(――この楼主こそが、ひとでなしの頭領か?)
お前さんは、ここで生きろ。
おんなたちの世話をする黒子になれ。働け。
なに、むつかしいこたァねェよ。
ここでは、老いることもねェ。飢える心配もねェ。
病気にだってなりゃしねェ。
嘘だと思うか?
本当だ。すぐに知れるさ。俺たちは飯なんか食わなくたって、死なねェよ。
ああ――化け物だなァ。
(――そうだ。僕だってもう、きちんと食事をしたのがいつなのか分からなくなってきている)
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