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〈序・3〉

(何だ?)  僕は、刃先の退いた首をゆっくり傾けて、コチョウラン……と呼びかけられたモノを眺める。 (何だ、あれは)  手に円い行灯(あんどん)。  薄い闇が、行灯の周囲だけをキラキラと照らし出していた。    そこに佇むのは、十六、七ほどの人形――。  白い肌は、病的なまでに白く、儚く透けてしまいそうなほどに、白く。  異端の青い髪は腰より長く、さらさらと風になびいていた。    人形が喋るわけがない。人間なのだ。  けれど、端整過ぎる横顔は、およそ〈人〉には見えず、僕はひそかに息を呑んだ。    ほっそりとした身体は、見たこともないような不思議な衣服に包まれている。  黒地に金の刺繍が施された、和風、中国風、どちらにも見えるドレスが、美貌をより際立たせているように思った。    人形は、ギン、と大の男達を睨めつける。  青い瞳に、侮蔑の(ほむら)を宿して。 (いったい、何が起こってる?)  目の前で起こる茶番劇に、ちっとも脳みそが追いつきやしない。  僕は、凛と立つ人形を、ただ、ただ、()ている。  人形の青い瞳がこちらを捉えた。 (……っ! 目が、合った……)  ふわり。  花の香りを乗せて風が舞った。  青い髪が揺れる。  小さな髪留めは金色(こんじき)の蝶。    サクサクサク。  装飾だらけの、踵が分厚いブーツはとても歩きにくそうだ。  だが、人形の足は止まることなく花を踏み、こちらに距離を詰めてくる。  心臓が跳ね、痛いほどに乱れ打つ。  手足が震えているのが分かる。  両頬が燃えるような熱を持っていた。
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