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「永原さーん、点滴の差し替えですよー」 「え?」  薄いピンクの服を着た、二十代半ばほどの女性が現れる。 (ピンクの……あれは、ナースウェア? て、ことは……。ここは、病院なのか?)  看護士は狼狽する僕に構うことなく、つかつかとベッドに歩み寄る。 (見えていない? 僕は、見えない存在なのか?) 「永原さーん」  看護士は患者に呼びかけてから「あら、窓が開いてる。永原さんが歩くわけないし、さっちゃんが朝に回った時に換気でもしたのかしらね」と首を捻りながら窓を閉めて錠を締め、カーテンをきちんと開いた。  優しい声で患者に話しかける。 「永原さん、こんにちは。検温もしますよ」  いつもそうしているのだろう。  手馴れた動作で体温計を患者のわきの下にあてがっている。  ベッドに横たわっているのは、十七、八の女の子だった。  豊かに波打つ黒髪、病的に白い肌、ほっそりとした身体つき――。    僕は彼女を知っている。    だけど、彼女は。    あのひとは。 「……っ」  叫ぼうとするが、後頭部に重いものを投げつけられたような衝撃を受けた。 「あ、ぐっ」  そのまま睡魔がのしかかる。 (待ってくれ、待ってくれ、僕は)  手を伸ばそうとあがいても、やはり、身動きは許されず―― (どうしてあなたがそんな場所にいるんだ、あなたはいったい誰なんだ! 答えてくれ、答えて、頼むから教えてくれよ――!!)  たくさんの疑問符を残しながら、やがて意識は暗闇へと消えた。
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