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〈第一章・44〉
葉のかたちが違う。
花のつき方が違う。
睡蓮は、水面に浮かぶように咲く。
蓮――ハスの花は、泥の中から葉と花を高く伸ばし咲く。
ふたつとも同じように朝方に咲いて、夜に花を閉じ、三、四日ほどで花の命を終える。
蓮の花は散ってしまうが、睡蓮の花は閉じたまま水中に没していくらしい。
「へえ、どっちも同じだと思ってました」
ここに来てからというもの、僕はすっかり花に詳しくなってしまったように思う。
「だけど、どうしてわざわざ似たような名前を使っているんですか? 紛らわしいでしょうに」
「そうだなァ。紛らわしいっちゃ、紛らわしいなァ。ま、せっかくおっかさんが付けた名前だ、せめてそのくらいは従ってやろうかって思ってなァ」
コン、と強くキセルを叩いて灰皿に草の塊を落とし、蓮はこともなげに言い放った。
「おっかさん……お母さん? ええっ!?」
「俺は睡蓮がお客さんからタネを授かって、薬の力で無理矢理育てて、落とした胤なのさ」
「え、そ、そんなこと……」
「あいつは〈同じもの〉と〈変わらないもの〉が好きなんだ。気味ィ悪いだろ、あいつら」
「はあ、まあ」
否定はしない。
「芙蓉は睡蓮のおもちゃになるために産まれて、生かされてる。俺は失敗作なのさ。最初は同じにしようと思ったんだろ、だから似たような名前をつけたんだ。……くっくく、似てるのに違うなんてなァ。だから、睡蓮は俺がイヤなんだろ」
蓮はひとしきり笑って、ひらりと身軽に立ち上がった。
「じゃあな。鍵はちゃんと渡したぜ」
「あ、はい。ここは〈時が止まっている〉のかと思ったんですけど、そうじゃないんですね。赤ん坊が産まれて、育つなんてことが」
「育ったなァ俺の意思だ。親がいなくたってガキは育たあ。ま、生んだなァ睡蓮の気まぐれさ。そんなツラすんなよ、これでも感謝してるぜ? 生んでくんなかったら、俺ァここにはいねェんだ。じゃあな」
「はい、どうも」
蓮に軽く手を振って、ソファに深くもたれて、目を閉じた。
(疲れた……。少しだけ休もう。少しだけ)
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