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〈第一章・42〉
「よォ」
「……あれ? すみません、間違えました」
「待て、待て。おい、間違っちゃねェよ、おい」
何もなかった僕の部屋は、二回目の夜を過ごし、今日一日分の労働を終えて帰ると、劇的に変化していた。
あまりの変わりように、反射的にドアを閉めようとするのを、勝手に中に入ってソファであぐらをかいている蓮が笑って止める。
「胡蝶ねえさんからの特急便さ。あいにく寄せ集め、おんなもんのお古ばっかりだけど、使えるもんは使ってやらねェと、付喪神 さんに祟られらァ」
「はぁ」
よく見れば籐製のソファのシートは可愛らしい小花柄だし、白いベッドは天蓋のついたお姫さま仕様、全身鏡の代わりに華奢な猫足のついたドレッサー。
確かに女の子が好みそうだ。
いったい誰がこんなに運び込んだのかは知らないが、よくもまあこんなに……といった具合だ。
僕にはどこかのワガママなお姫さまと違ってインテリアのご趣味はない。
快適に眠ることが出来ればそれでいいので、礼を言って頭を下げた。
「なに、さっきも言ったがおさがりだ、畏まるなよ。胡蝶がそうしろってェ言ったから、したまでさ。ここまで運んだなァ岩鉄だ。礼ならふたりに言ってくれ」
蓮はひらひらと手を振る。
つくん。
しつこく残る痛みがこめかみを刺した。
僕は作り置きをたくさんしておいたうち、こっそり拝借した薔薇の紙巻に火を点けて、背もたれに深くもたれた。
胡蝶蘭の香りが部屋いっぱいに広がり、軽く眩暈がした。
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