1 / 125

〈序・1〉

「はあ、はあ、はあ……っ、く、ゴホ、ゴホ……」  僕は、ただひたすらに駆けている。   真っ暗な、街灯ひとつない、道ともいえない――いや。  どこまでもどこまでも果てしない、百花狂い咲く花園の中、噎せ返りながら駆けている。 「そっちに行ったぞ!」 「まったく、ちょこまか走り回りやがって。ああもう、明かりが切れそうだ」  僕は見知らぬ男たちに追われて逃げている。 「ざ、けんなっ!」   悪態をつき、苦しい息を吸って、吐いて。  そのたびに濃い花の香りが身体の芯まで染みこんでくる心地がして、僅かな嫌悪感を抱いた。 (いったいここは、何なんだ? ここは、どこだ)  立ちくらみがして目をつむったら、いつの間にか、おかしな洋館の前にいた。 (何だってんだよ!)  さっきまで、よく友達とたむろっているコーヒー屋の前にいたはずなのに……。  くそったれ。こんなだだっ広い花畑、隠れる場所すらありゃしない。 「捕らえたぞ」 「く、あっ」   Tシャツの襟首を、丸太のような太い腕がむんずと掴む。 (――捕まった!)   歴史の教科書に出てくる〈なんとか入道〉のような、大男がジロリと僕を睨んだ。  片手で掴まれているだけなのに、まるで巨大な万力で締め上げられているかのよう。  なんて凄い力だ。  今にも足が浮きそうじゃないか。 「予定外の侵入者……。なんだ、まだ小坊主じゃねえか。おめえ幾つだ」 「痛ぇよ、オッサン!」  僕は大男を睨みつけ、「十九だ、悪いか!」と叫んだ。 「十九か。そうか」 「ほう、若いな。うん? 坊、ちょっと顔を見せてみろ」  こちらを眺める影が、もうひとつ。 (怖い)    黒いスーツを着た痩身の男は、僕の姿をためつすがめつ「ふむ」と首を捻った。大男もそれに倣い、こちらをのぞきこむ。 「おう? おめえ……。いや、まさか」 「他人の空似か? まあいい。ガキがどうしてここにいる」 「知るか! そんなの、聞きたいのはこっちの方だ!」  暴れれば暴れるだけ痛みが増すので、なされるがままに力を抜く。  大男は逃げ回る気力を失った獲物をつまらなさそうに一瞥し、すぐさま放り投げた。  着地に失敗し、ドスンと尻餅をつく。
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!