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〈第一章・41〉
「変わったひとたち……ですね」
「もう戻って来たか」
「……」
答える代わりに眉間に皺を寄せた。
「早かったな。はじめてだから、もっともっと長く呆けておるかと思った」
「日頃のおこないも健康状態も良いから、薬物には強いんですよ。ぜんっぜん、ちっとも、ご心配には及びません」
精一杯の厭味をこめて、にっこりと笑ってみせた。
「よう言うわ。口だけは達者になったようだな。早速、花姫ふたりも手懐けただけのことはある」
「手懐けた、って……。そんなことない」
「ふん」
つまらなさそうにそっぽを向いて、小さな籠を持ち直す。
ちらりとシャベルと鋏のようなものが見えた。園芸用だろう。
底の厚いブーツが硬質な音を響かせて、わきをすり抜けてゆく。
すれ違った瞬間に、どこか違和感をおぼえて呼び止めた。
「胡蝶蘭?」
答えない。
彼女はそのまま歩いてゆく。
「胡蝶蘭ってば!」
呼ぶだけ無駄かと諦めかけたけれど、やはり気になってしまい、僕は小走りになって後を追った。身長、もちろんコンパスの差もあるけれど、厚底ブーツは歩き難いのだろう。
いくら早足になっても遅いので、すぐに追いついてしまう。
「あのさ」
薄い肩に手をかけ、ぐいと引き止める。
「待てってば! どうしたっつーの、なあ、胡蝶蘭!」
「喧しい。妾は聾唖 ではない」
いつもと変わらぬ冷えた声――だけど。
「……どうして、そんなに赤くなってんだ?」
「ふん」
胡蝶蘭はうっとうしそうに僕の手を手を振り払った。
忌々しげにこちらを睨んでから、立ちつくす僕を置き去りにして、大きな音をたてて自室のドアを閉めた。
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