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〈第一章・40〉
「新顔」
浅黄色が僕に、ついっと指先を向けて小首を傾げる。
仕草は可愛いけれど、どこか目がうつろに感じた。
薄水色が、にこりと笑う。
「これが千秋ですか、胡蝶蘭さま」
こちらの天女は、無表情のまま僕をさしている浅黄色と対照的に、ずいぶん生き生きとしている。
「ああ。気に入ったから飼ってやろうかと思ってな、睡蓮 。細雪はすぐに殺してしまうから、妾がもうちっと行くのが遅かったら、今ごろ庭園の肥料になるところだった」
「うふふふ」
浅黄色と薄水色の天女は、揃って笑った。
いいだけ馬鹿にしては、すぐ真顔に戻る。
次はこちらが品定めをされる番らしい。
浅黄色がじっとこちらを見つめ、低く呟いた。
「否」
浅黄色はふいと目を逸らした。
甘えるように薄水色の手を握る。
「あらそおぉ? わたしはいいと思うけれど」
「……否」
「うふふ。妬かなくたって、わたしはあなたが一番よ。可愛い、可愛い芙蓉 」
拗ねたような浅黄色――芙蓉に優しく笑いかけ、背の低い薄水色――睡蓮が歩み寄った。
「良い男じゃない。あら、日にあたると髪の色が薄いのね。混血なの? へえ、違うの。目も茶色がかっているのね、珍しいわ。本当、それだけ除いたら那津にそっくり。わたし、胡蝶蘭さまがとても羨ましいわ」
「羨ましい?」
睡蓮の言葉を繰り返すと、胡蝶蘭が愉快そうに制した。
「これ、千秋は妾のものだ、虐めるな。睡蓮、芙蓉、そろそろ来客だろう」
「はい、胡蝶蘭さま」
「はい、胡蝶蘭さま。じゃあねぇ、千秋。また今度、わたしたちとも遊んで頂戴ね」
笑いさざめきながら、ふたりの天女が脇をすり抜けていく。
お揃いで下げている巾着袋から、にっき飴の香りが掠めていった。
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