44 / 125

〈第一章・40〉

「新顔」  浅黄色が僕に、ついっと指先を向けて小首を傾げる。  仕草は可愛いけれど、どこか目がうつろに感じた。  薄水色が、にこりと笑う。 「これが千秋ですか、胡蝶蘭さま」  こちらの天女は、無表情のまま僕をさしている浅黄色と対照的に、ずいぶん生き生きとしている。 「ああ。気に入ったから飼ってやろうかと思ってな、睡蓮(すいれん)。細雪はすぐに殺してしまうから、妾がもうちっと行くのが遅かったら、今ごろ庭園の肥料になるところだった」 「うふふふ」  浅黄色と薄水色の天女は、揃って笑った。  いいだけ馬鹿にしては、すぐ真顔に戻る。  次はこちらが品定めをされる番らしい。  浅黄色がじっとこちらを見つめ、低く呟いた。 「否」  浅黄色はふいと目を逸らした。  甘えるように薄水色の手を握る。 「あらそおぉ? わたしはいいと思うけれど」 「……否」 「うふふ。妬かなくたって、わたしはあなたが一番よ。可愛い、可愛い芙蓉(ふよう)」  拗ねたような浅黄色――芙蓉に優しく笑いかけ、背の低い薄水色――睡蓮が歩み寄った。 「良い男じゃない。あら、日にあたると髪の色が薄いのね。混血なの? へえ、違うの。目も茶色がかっているのね、珍しいわ。本当、それだけ除いたら那津にそっくり。わたし、胡蝶蘭さまがとても羨ましいわ」 「羨ましい?」  睡蓮の言葉を繰り返すと、胡蝶蘭が愉快そうに制した。 「これ、千秋は妾のものだ、虐めるな。睡蓮、芙蓉、そろそろ来客だろう」 「はい、胡蝶蘭さま」 「はい、胡蝶蘭さま。じゃあねぇ、千秋。また今度、わたしたちとも遊んで頂戴ね」  笑いさざめきながら、ふたりの天女が脇をすり抜けていく。  お揃いで下げている巾着袋から、にっき飴の香りが掠めていった。
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!