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〈第一章・39〉
初めて見る顔だ。
皆で洋館の外に出ていたのだろうか。
薔薇や、その他の花の香りに混じって日向のにおいがする。
よく見ると、いつも手ぶらの胡蝶蘭が小さな籠を持っているのに気がついた。
「紙巻なら、さっき作りましたよ。これから乾燥室へ行って、巻いた分をお持ちするつもりでした。どこかへ出かけていらっしゃったんですか?」
「庭園へ」
「ああ……そうでしたか」
では、ちょうど僕と入れ違いになったのだろう。
そういえば、毎日欠かさずに青い薔薇の世話をしているんだったっけ。
よく見ると、彼女は手首に赤い糸のようなものを巻きつけていた。
「胡蝶蘭さま」
「胡蝶蘭さま」
ふたつの声がぴたりと合わさって聞こえた。
「っ?」
揃えた音程、揃えたテンポの話し方に薄気味悪さを感じる。
薄水色と浅黄色の、これまたお揃いの衣装を纏った――昔話に出てくる天女、天の羽衣をそのままイメージするとしたら、きっとこんな感じ。
珍しく思い、ついついふたりを凝視してしまう。
(双子? いや、違う)
パッと見の雰囲気が似ているだけだ。
そもそも背丈が違う。
目鼻立ちではそれなりに似ている箇所があるけれど、そっくりではない。
ふたりとも、ここの住人らしい整った姿かたちを持っているのに、わざわざ化粧で個性を消して似せているのだろうか。
どうでもいい。
それこそ、個人の趣味趣向だ、僕には関係ない。
自分の心にてきとうな折り合いをつけて、ため息をひとつ。
いちいちここの住人のおかしな言動に振り回されてやるものか。
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