43 / 125

〈第一章・39〉

 初めて見る顔だ。  皆で洋館の外に出ていたのだろうか。  薔薇や、その他の花の香りに混じって日向のにおいがする。  よく見ると、いつも手ぶらの胡蝶蘭が小さな籠を持っているのに気がついた。 「紙巻なら、さっき作りましたよ。これから乾燥室へ行って、巻いた分をお持ちするつもりでした。どこかへ出かけていらっしゃったんですか?」 「庭園へ」 「ああ……そうでしたか」  では、ちょうど僕と入れ違いになったのだろう。  そういえば、毎日欠かさずに青い薔薇の世話をしているんだったっけ。  よく見ると、彼女は手首に赤い糸のようなものを巻きつけていた。 「胡蝶蘭さま」 「胡蝶蘭さま」  ふたつの声がぴたりと合わさって聞こえた。 「っ?」  揃えた音程、揃えたテンポの話し方に薄気味悪さを感じる。  薄水色と浅黄色の、これまたお揃いの衣装を纏った――昔話に出てくる天女、天の羽衣をそのままイメージするとしたら、きっとこんな感じ。  珍しく思い、ついついふたりを凝視してしまう。 (双子? いや、違う)  パッと見の雰囲気が似ているだけだ。  そもそも背丈が違う。  目鼻立ちではそれなりに似ている箇所があるけれど、そっくりではない。  ふたりとも、ここの住人らしい整った姿かたちを持っているのに、わざわざ化粧で個性を消して似せているのだろうか。  どうでもいい。  それこそ、個人の趣味趣向だ、僕には関係ない。  自分の心にてきとうな折り合いをつけて、ため息をひとつ。  いちいちここの住人のおかしな言動に振り回されてやるものか。
いいね
ドキドキ
胸キュン
エロい
切ない
かわいい

ともだちとシェアしよう!