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〈第一章・37〉

「あのひとは〈招待客〉にご学友さまがいらっしゃって、そうしたご縁でこの場所を知っていらっしゃったそうです。私が使い物になるまで、三年くらいかかったでしょうか……。読み書きを教えていただきました。礼儀作法を教えていただきました。笑い方を、教えていただいたのでございます」  姫桜は、新しい紙巻きを取り出した。 「そうだったんですか……」  汚れた世界に絶望した娘が、豪華絢爛な洋館に、ぽんと連れられて来た気持ちを想像した。  軽く息をつく。  見るもの聞くもの、何も分からない場所で、今までの〈生〉全てと決別し――ああ。 (なんて、僕と似ているんだろう)    ただ、姫桜のと僕のは、まったくの別物だ。    僕は迷いこんで、情けなく途方に暮れるだけ。  そこへいくと姫桜は選んで、学んで、勝ち取って、この場所にいるのだ。 「私がここに来て、しばらくたってから胡蝶蘭さまがいらっしゃいました。あのお方も千秋と一緒の〈迷い人〉でございます。真っ白い服を着て、庭先でまどろんでいらっしゃることろを保護されたと聞いております」 「え?」  今、彼女は何と言った?    胡蝶蘭も僕と同じ――? 「そ、そうなんですか? てっきり僕は、あのひとはずっと前からここにいるとばかり思っていました。やたらと貫禄あるし」 「あらあら、それは、それは。貫禄……そうですわねぇ。それでも、はじめは泣いて泣いて。お気の毒でございました。帰りたい、帰りたいと。同じ日に〈拾われた〉先代の黒子さんが、あのひとを女王さまのように教育なされたとか」 「先代?」
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